第10話
「本日はここで終了です。このあとはバスに乗りホテルに向かいます」
ツアー客と共に二人はホテルへと向かうバスに乗り込む。空は太陽が沈んだ直後で、夕焼けが夜に溶けて消えていく。空は暗く、月は空の主役に躍り出る。
いつも通りの夜、しかしつい最近の出来事から阿曇は空を気にせずにはいられなかった。
「やっぱ空、気になるか?」
「まあ、そうだな。気になるな。でも気になるだけで、それ以上は無いよ」
木村を心配させないように心の内を隠さず話す。
「それならいいんだ。‥ホテルじゃお肉出るらしいぞ」
暗い空気を変えようと晩ご飯のメリューに話題を切り替える。今日はお肉、明日は海鮮、最終日はバイキング形式でホテルのご飯が出るそうだ。これもロボットや移動法の開発によって食べられる。ロボット研究の一環も兼ねていて雇うお金もかからない、ホテルやその他の店にとっても嬉しいことであった。
木村はほらと言いながら携帯画面を見せてくる。そこにはホテルのメリューが乗っていて、肉汁溢れるお肉の写真が写っている。
「美味しそうだな」
「そうだろ」
木村はメリューを眺め、阿曇は空を眺めた。そうしているとバスは発車し、ホテルに向かう。
時は流れて次の日、昨日はお肉を食べすぎたと反省しながらツアーバスの乗り込む二人。そしてとある時空に侵入しようとする知性が一つ。
二日目にバスが向かうのはエウクレがいる国内もとい世界でも定理証明や観測に力を入れる研究所である。最も何故日本にエウクレがあるのかというと元々アメリカで作成され、研究が行われていたのだが、他の定理宇宙での証明戦の影響で空間定理に異常が生じ、空間がゆがんでしまった。この拍子にエウクレが日本の富士山に飛ばされてしまい、アメリカに戻すのかどうかの話し合いの結果、別に世界中の電子機器にエウクレは接続できるし、通信の誤差も無いんだから良くないかとなり、今に至る。
「本日は定理宇宙を主に研究しているITU研究所に行きます。行くにあたって超光速移動と十一次元へ向かいますので、シートベルトをしっかり付けてくださいね」
ITU研究所は阿曇のいる十次元にはあるにはあるが、あるのは入り口のみで、研究の本拠地は十一次元にある。
十一次元は十次元の空間と一次元の時間から構成されている、人間に知覚可能な物理的次元の限界である。何故そんなところにあるのかというとエウクレが観測するにあたり、邪魔になる次元の壁は一つでも少ない方が良いと言った事と人間も当然研究に参加しなくては意味が無いという研究者の意見を両立させようとしたからだ。
「腰痛めなくて済みそうだな」
「でも十一次元だから次元圧は来るよ」
木村は苦い顔をしながら、シートベルトを付ける。
次元の壁、二次元から三次元、この間は次元圧力が生じている。通常この圧力の壁を超えることは無いが、高エネルギー状態であれば次元を越えられる。十次元から十一次元も行き来出来るのだ。しかし二次元から三次元ならばそこまでエネルギーを必要としないが、十次元から十一次元になると物理宇宙においては高次元であり、必要なエネルギーも低次元の比ではない。
「では出発します」
バスはひとまず通常運転で研究所の入り口に向かう。バスの中は研究所の話題で持ちきりだ。あの研究に興味があるとか定理証明出来るらしいよとか言いながら研究所を楽しみにしていた。阿曇も観測機エウクレの情報を見ながら楽しさに胸を躍らせている。
すると木村がスマホの画面を見せてくる。
「星定理の入れ替え?」
画面には星定理の疑似定理証明による入れ替えの研究について書かれていた。サイトにあったのは月と火星の入れ替えについてで、月に一つ、火星に一つ装置を置き、互いの星にある星定理を入れ替える。より正確には一時的に月に火星定理を、火星に月定理を重ねて同じ環境を作るというものだ。
「そうなんだよ。ここの研究所でやってるらしいんだけど、面白いよな」
目的としては別の星の環境を一時的だが地球近くに作成できるので、一々遠くに行かなくても研究が行えるという時間短縮だ。他にもその星にある資源を採取するのもあったが、火星定理が重なっている内は採った鉱物も火星の物と同じ成分であるのだが、一度装置を止めると月に戻ってしまい、採ったものも元に戻る。
「俺はやっぱりエウクレかな」
そういい、阿曇はエウクレに思いを馳せる。かつて他の宇宙に飛ばされた彼女にもう一度会いたい、エウクレならば出来るかもしれないと。小さくも確かにある希望が彼のエウクレを見たい思いに繋がっていた。
「良いよな、エウクレ。俺もさ、前に食堂で話してから調べたんだよ、人類に凄い貢献してるんだな」
「スマホに入れられるアプリでもエウクレは入れれるし、エウクレ自体街中の色々なものに繋がってるらしいからな、凄いよな」
「そういや、エウクレから生まれたAIがあるらしいけど、あれ、超光速移動システムの制御してたやつらしいな。AIなのにミスするんだなって笑っちゃったよ」
二人が話している内にバスは研究所の入り口に着いていた。
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