第8話:初陣

訓練兵としての生活が始まってから、3ヶ月が経った。


子どもだからと最初は甘く見ていた兵士たちも、日を追うごとにセレスタイトの観察眼と動きの鋭さに驚かされるようになっていた。


(……本当に10歳か?)


何人がそう呟いたか分からない。


座学は不得意でも、状況判断や体術においては、時に教官すら舌を巻くほどだった。


「もちろん即戦力として扱うわけではない。あくまで訓練兵としてだ」


そう言っていた上官も、今では時折、実戦配備の可能性を口にし始めていた。


そしてある日、彼は「前線視察の同行任務」に選ばれる。


これは、訓練兵としては極めて異例だったが、「補給と連絡係としての実地訓練」という名目がついた。


しかも、あくまで同行という立場で、正式な戦闘参加ではないと、上層部は強調していた。


だが、戦場に“安全な場所”など存在しない。


それを知っていたのは、セレスタイト自身よりも、エヴァレットだった。


「……どうして、行かせるんですか」


エヴァレットの声には、かすかな怒気が混じっていた。


「本人の希望だ。それに――」


上官は一瞬、沈黙したあと、低く続けた。


「もう、君の影だけに隠しておける人間じゃない。あの子は、自分で歩き始めてる」


エヴァレットは黙ったまま、手に持った書類を強く握りしめた。


その日、セレスタイトは初めて軍服の上に防弾布をまとい、支給された小型ナイフを腰に差した。


仲間たちとともに補給車に乗り込み、彼の初陣は、静かに始まった。


それが、“地獄の入口”だと知るのは――もう少し後のことだった。

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