7月4日水曜日2

「どうしたの、2人そろってこんなに早く……」

「たまには、文乃に倣って朝早く来て……朝の大学の空気を吸うのもいいかなって思ってさ。やっぱり文乃は早いのね」


 明日香が笑顔で軽くかわす。


「そう? 大体、これくらいには来ているから」

「早いわよ」


 真琴は、明日香と文乃の会話の流れがかみ合っていない気がした。


「文乃は授業前の時間が好きなのよ。昔から授業前に本読んでいるからね」と真琴が2人の会話に言葉をはさんだ。


「本読む習慣って昔からなんだ。じゃあ、もう教室に入るの?」

「そうね。入ろうかなぁ……って。そんなことより、何の話をしていたの?」

「うーん。文乃には、関係ない話かな。真琴と秘密の作戦会議って感じ」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、私は先に教室に入ってるね」

「うん。あ、場所取っといてね」

「はいはい。あ、真琴。昨日のノート、明日には返してよね」

「はーい」と言って、真琴は文乃に手を振った。


 文乃も手を振り返した後、教室に入っていった。




「関係ないって、ちょっとキツくない?」

 真琴はそう言って、明日香の方を見た。

「キツかったかも……ちょっと言い過ぎた。でも、この件については文乃を巻き込むわけには……」


 確かに楽しい話やいい話であればと思うが、雲行きが怪しいこの話題に巻き込むのはどうかとは思う。神花堂やわくわくどきどき未来ラジヲの話はしたけど、文乃はわくわくどきどき未来ラジヲを聞いているわけではない。文乃をこれ以上関わらせないための明日香のやさしさと気遣いなのだろう。


「で、話を戻すわよ」

 明日香の表情は真剣な表情に戻っていた。


「私は2つのことが気になるの」

「2つ?」

「1つ目は、誰があんな投稿をしたのか。ラジヲネーム『ハートハック』って誰? こいつを放置していると、第2、第3のトラブルが起きると思うの。いや、私は少なくとも1つはすでに起きていると思っている」

「どういうこと?」

「それは後で話す。2つ目は、小川君自身は今回のリクエストをどう思っているか? どう対策をするのか?」

「あ、私がリクエストしないほうがいい?」

「そうとは言えないわ。小川君が5回あるリクエストを使い切っているかもしれない。少なくとも私は、今までのラジヲで小川君っぽいリクエストは聞いていないわ」

「私が記憶しているのは、コスプレ……」

「あのリクエスト、小川君のリクエストであって欲しい?」


 真琴は首を横に振った。小川のイメージとあわない。


「でしょ。ってことは、まだ数回しか聞いてないけど、小川君のリクエストは出ていない。私たちが未来ラジヲを聞き始めた時には、すでにリクエストを使い切っているか、ずっと温存しているかのどちらかと考えたほうがいいと思う」

「じゃあ、どうすれば……」

「いい。どうすればいいかは、小川君に直接聞くのよ。今日バイトは?」

「ある」

「小川君は?」


 真琴は自分の顔が強張っていくのがわかる。


「今日、バイト入っている……」

「聞くのよ。小川君に……絶対」

「なんて聞けば」

「そのままよ。昨夜のどきどきわくわく未来ラジヲを聞いたか。リクエストは何回残っているのか」



 やっぱり……



「私たちが、なんでそのことを知っているって聞かれると思う。正直に言うしかない。あ、でも尾行したことは内緒よ」

「嫌われるってことは……」

「嫌われないわよ。私たちも、偶然、あのお店に行ったことにすればいいだけよ。それに悠長なことを言っている場合じゃないわよ。小川君の命が優先。突っ込んだ話をするのは怖いし、そういう意味では嫌われる可能性はゼロじゃあないだろうけど……でも、小川君が大事故にあったら、小川君と話をする機会すらなくなっちゃうのよ」

「……わかった」

「よし、がんばれ」


 そう言って、明日香は机の向こうから思いっきり手を伸ばし、真琴の肩を叩いた。



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