7月4日水曜日1
今日の講義は2時限目から。
昨日の夜、わくわくどきどき未来ラジヲ終わりに「朝一に行くわ」と明日香に言われた。1限目の時間には来るということなので、真琴もそれに合わせて学校に向かった。
文乃も同じ科目を受けているので、もう少し後で来るだろう。
真琴は大学に来るなり、見ていたのかと思うようなタイミングでスマホが鳴った。相手は明日香。
「真琴、来てる?」
「うん、今、来たところ」
「じゃあ、2階のフロアの席とっているからそこに来て」
大学敷地内の複数ある校舎のうち、最も大きい校舎。その校舎の2階中央にある各教室や研究室につながる大きなフロアがある。そこに6セットのテーブルと椅子が準備されている。授業までの時間を潰したり、自習勉強をしたり、雑談をしたり。多目的に使用できるように大学側が準備しているスペースである。
各教室に通じているため、使い勝手がよく、席が埋まっていることが多いのだが、遅刻常習の明日香が陣取っているということは、明日香は今回のことが重大な事だと考えているのだろう。
指定された2階フロアに行くと、すでに席がすべて埋まっていた。が、その中で、手帳を開いて何かを熱心に書き込んでいる明日香の姿を見つけた。
「おはよ」と真琴は明日香に声をかける。
「真琴、大変なことになったわね」
開口一番、珍しく明日香が真剣な顔をしている。
「でも、小川君と決まったわけじゃあ……」
「いや、でも、可能性は高いと思う」
「なんでよ」
「忘れていない? あのラジヲは、よく分からないあのお店のオリジナルの商品なのよ。ラジヲ自体の仕組みはわからないけど……」
あのお店。神花堂という店は、この大学の比較的近所に位置する。店を出た後、真琴は神花堂をネットで調べてみたが、お店のサイトどころか、マップでの表示、口コミなど、どのように調べてもヒットしなかった。
「東京や大阪の人が、このアプリを手に入れていると思う? このラジヲを聞いていると思う?」
「……ない」
「ってことは、絶対、私たちの周囲だけで起きるはず。大きく幅を広げて考えたとしても……県内。しかも、リクエストの内容から考えると大学に近い人だと思う。学生か、教授か、大学祭に来た人。県内で大学は4校。うちの大学も含め、各大学のサイトを見たけど、さすがに美男子ランキングの結果みたいなことはどこにも書いていなかったわ」
「調べたの?」
「当たり前よ。うち以外の3校も、年間スケジュールに大学祭があるってことは書かれているだけで、大学祭の詳細までは、記載はなかったわ」
「じゃあ、うちみたいに美男子ランキングをしている大学は……」
「もしかしたら、うちだけかもしれない。うち以外もやっているかもしれない。ありきたりなランキングだから、なんとも言えないけどね……」
明日香は視線を手元の手帳に落とした。真琴は、明日香の視線につられ、明日香の手帳の中身を覗いた。県内4校の名前と、各学校のサイトに記載されている概要など、書き込まれていた。
明日香は、手帳に視線を向けたまま口を開く。
「ラジヲでは、学年別とは言ってたけど、学年までは言ってなかった。仮にうちも含め大学4校が同じ美男子ランキングをしていたとして、学年ごとの美男子ランキング3位ってことは、最大で16人。16人の中でイニシャルが一致する確率って低いと思う」
真琴は目を丸くした。今日の明日香は頭が切れる。明日香っぽくない。明日香は真琴の考えなど気付くこともなく言葉を続ける。
「大学祭の実行委員していた子に、うちの美男子ランキング全員の名前を教えてもらったけど、同じイニシャルは小川君だけ。当然だよね。この時点で、小川君を除く候補者は12人まで減っちゃうのよ。絶対とは言えないけど、小川君と判断したほうがいいと思う」
「じゃあ、私は今夜のリクエストで『明日、小川君が事故にあわないように』って書いておけばいいのね」
明日香は顔を上げ、真琴に視線を向けた。
「そうね。但し、昨日リクエストしたヤツみたいに、小川君を特定できる情報を盛り込んだ方がいいわ。うちの大学名とフルネームを書いておくのが無難だと思うわ」
「世の中、小川って人なんて、たくさんいるものね」
「そういうこと。それにしても、誰かわからないけど、あのハートハックってヤツ。このラジヲの扱いを理解しているヤツだわ。気を付けないと」
明日香はそこまで言って言葉を切った。明日香が、真琴から視線を外した。明日香の視線の先に目を丸くした文乃が立っていた。
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