7月3日火曜日23時45分
わくわくどきどき未来ラジヲの時間が近づいてくる。真琴は化粧水を塗りながら、時計が気にしていた。
ただ、なんとなく……今日はラジヲの気分ではなかった。けれども、明日香が何かを投稿するかもしれないので、無視するわけにはいかない。
アプリの通知音が聞こえてきた。が、すぐにはアプリを立ち上げなかった。リクエストのコーナーは終盤に始まるので、放送終了まで残り数分というところまで待って起動した。
「あっちゃー。また、こんな内容のこのリクエストを……」
「なっちゃん、せっかくいただいたリクエストに『あっちゃー』はないでしょう」
「でも、あたし、こういうリクエストは好みじゃあないんだけど」
「あのね。オレたちはプロなんだから」
「そうだよね。あたしの好みなんか言ってる場合じゃないよね。このラジヲは、みんなのわくわくどきどき未来ラジヲですもんね」
「そうそう。その通り」
「じゃあ、あたしたちはリスナーさんの想いをのせて、リクエストに応じたいと思います。ねぇ、シゲさん。ハートハックさんのリクエストはいつ?」
「そうだね。じゃあ、明後日、7月5日に叶うように私たちも全力で動きます。プロとして」
「おお、シゲさん。なんかかっこいい。でも、なんでだろ。プロって言葉が全然似合わない」
そう言いながら、なっちゃんが笑う。
「プロって言葉は、オレのためにあるような単語だと思っているよ」
「はいはい。思うのは勝手だからね」
「じゃあ、そろそろお時間となりました。明日も楽しみにしてくださいね」
「ばいばぁい」
軽快な音楽が徐々に小さくなっていく。その後、ブツッという切れるような音がして放送が終了した。
それと同時にスマホが鳴った。明日香からだ。
「真琴、ラジヲ聞いた」
夜中には似つかわしくない慌てた声。
「ごめん、最後のちょっとしか聞けなかった。変なリクエストでしたの?」
「違うわよ。狙われたのよ」
「狙われた?」
「全然聞いてないの? リクエストは、大学の同級生が大きな事故に遭いますように……だって。名前はぼやかされているけど、今回はイニシャルが出たわ。しかも、リクエストには同姓同名がいたらいけないので……って、ご丁寧に大学祭で美男子ランキング学年3位って説明までつけている。ラジヲでは大学名もぼやかされていたけど」
真琴の心臓の鼓動が早くなる。
「べ……別の大学じゃない、たまたまじゃあ」
「そう、たまたまかもしれない。でも、小川君だったら取り返しがつかないよ」
小川君のはずがない。絶対ない。このラジヲがどれくらいのエリアで聞けているのかはわからないけど……そんな共通の人がいるとは思えない。ありえない……
「……も……もしもし、真琴聞こえてる?」
「あ、ええ。聞こえているわよ」
「阻止するわよ」
「え? どうやって?」
「未来ラジヲよ。ちょっと……あんた、起きてる?」
「あ、そっか。リクエスト……」
そう言って、アプリを立ち上げる。次回の番組スタートまでのカウントダウンが表示されており、リクエストページ以外は動作しなかった。
「真琴。事故は2日後。明日のラジヲで正確にリクエストをすれば、事故は止められるはず」
「そ、そうね。じゃあ、今から私が……」
「待って。私もまだ、リクエスト残っているから。明日、話しよ。頭を冷やしてからリクエストの文面を考えないと……ちゃんと内容が伝わるリクエストにしないとまずいからね。それにしても、まさか、こんな使い方をする人がいるなんてね」
「……そうね」
「じゃあ、また明日。あ、朝一に学校に行くわ」
そう言って、明日香は電話を切った。
釈然としない。バイト中の小川の顔が浮かび上がる。
小川君がなんで狙われるの?
大学の小川の様子を思い浮かべる。周りの人と話はするが、特定の誰かと仲良くしている姿を見たことはない。誰かとグループになっている様子もない。授業はちゃんと出席している。特に人から恨まれるような印象はない。悪い噂も聞いたことがない。
真琴は横になる。が、寝られるわけがなかった。
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