7月2日月曜日23時45分
未来ラジヲの通知音が聞こえた。
あ、もうそんな時間か。
真琴は化粧水を塗る手を止め、慌ててアプリを起動させる。スマホの画面はもう割れていない。
ブツッというどこか無機質の音が入ったかと思うと、軽快な音楽が流れ始めた。
「はぁい、今夜も始まりましたわくわくどきどき未来ラジヲ。皆さんは、今日、どのようにお過ごしになられていましたか? 昨日、テンション低かったなっちゃん、今日は大丈夫?」
「月曜日を越えれば……惰性で金曜日まで行ける。なんとか月曜日の朝を超えることができましたよ」
「なんの自慢にもならないよ、あ、まさか……このラジヲも惰性なの?」
「惰性じゃあなないです。ばっちり気合をいれて臨んでいますよ。毎回全開フルブーストですよ。シゲさんはラジヲをスタートする直前、『このラジヲは休みなく毎日なんだから、適度に力を抜かないと続かないよ』って、いつも言ってますよね? あたしはシゲさんとは違います」
「おいおいおい、オレまで巻き込むなよ。オレは毎日全力投球。1分1秒たりとも、手を抜いたり致しません」
「なに、その言葉のチョイス。今どき、全力投球なんて誰も言わないよ。昭和か?」
「オレは、昭和生まれだよ」
「シゲさん、今、令和だよぉ」
その言葉を合図に、真琴が子供の頃、親が車の中で流していた音楽が流れてきた。
「曲の選曲も昭和かよ……」
「なっちゃん、これ、平成の曲だから……」
その言葉を境に、完全に音楽パートに入った。
真琴は、アプリのリクエストページを開く。が、今夜も何も思いつかない。それに、昨日のリクエストは、明日実現すると言われている。それが実現してからでいいかなと思い、リクエストページを開いたままスマホを置いた。
番組の終盤にさしかかり、パーソナリティのなっちゃんがしゃべり始めた。
「今夜もリクエスト来たよ。今夜は3通。しかも、そのうち1人は、初リクエストだよ」
「え?じゃあ、とうとう最大参加人数5名そろったんだ」
「そろったよぉ。じゃあ、早速届いたリクエストを紹介するよ」
なっちゃんが、軽く咳払いをする。
「じゃあ、せっかくなんで初リクエストの方から。あ、初リクエストっぽい内容で、私……ほっこりしちゃう」
「なっちゃんの感想はいいから」
「そう? じゃあ、いきますね。ラジヲネーム、リトルプリンスさん」
「リトルプリンスさん、ありがとう」
「あ、いきなり個人情報が書かれているのでちょっとぼかしますね。……よし、じゃあ、いきますよ。『好きな人とふたりっきりでデートできますように』ですって」
「恋人にしたい人とデート。いいですよね」
なっちゃんが、チッチッチと舌を鳴らす。
「シゲさん。古い、古い。好きにもいろいろあるんですよ」
「いろいろって、どういうこと?」
「詳しく言ってしまうと、リクエストされたリトルプリンスさんが特定されちゃうといけませんから言えませんけど……シゲさん、もう少し人の心を勉強しましょう。他人に興味なさすぎ」
「あ、そうかも……オレ、自分大好きだからねぇ。ちなみに、リトルプリンスさんのリクエストは、明日ですので、楽しみに待っていてくださいね」
「じゃあ、次、いきますね。ラジヲネーム流浪の黒猫さんのリクエストです」
「流浪の黒猫さん、ありがとう」
「リクエストに応えていただき、ありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、リクエストをしてくれてうれしいです。リスナーさんに感謝されるのもいいものですね」
「そこで、4つ目のリクエストをお願いしたいことがあります。アニメ『美少女ウィッチ』の、ウイッチダリアとウィッチマーガレットに似た人にコスプレ衣装を着てもらい、写真撮影会をしたい」
「なるほど、そうきたか」
「そういうものなの?」
「そういうもんでしょう。なっちゃんだって、憧れの俳優さんが目の前にいたら?」
「一緒に写真撮りたい」
「でしょ? だから、そういうもんだと思うよ」
「そっか」
「ただ、このリクエストにお答えするために、流浪の黒猫さんに1つ条件があります」
「なに、このパターン……」
「本来はリクエストに対して条件ってないんですが……おふたりのコスプレ写真を撮りたいんですよね。なので、4通目のリクエストで、流浪の黒猫さん分は終了とさせていただきます」
「え? 2通消費するの?」
「そうですね。キャラクター2人分ですからね……そう思っていただいても結構です。でも、実は……厳密にいうと……違います」
「え? シゲさん、何言っているかわからない」
「ですよね。ちゃんと説明しますね。流浪の黒猫さん、5通目を使用せずに持ち続けていただけるという条件を飲んでもらえるのであれば、8日後の7月10日火曜日に対応できます。念願の撮影会ができます。ただ、今回は特殊なリクエストであり、条件付きなので、本来はリクエストのキャンセルは受け付けておりませんが、今回だけ24時間以内にリクエストページにて申し出ていただければ、キャンセル処理させていただきます」
「イレギュラー対応ってやつですね。流浪の黒猫さん、よく考えてね」
「じゃあ、最後。ラジオネームアーリンさんのリクエストです」
「アーリンさんありがとう」
「あ、この人は直球。私、アーリンさんのリクエスト好きなんだよね。リクエストは……えっと個人名は伏せて……よし、『気になる男性ができました。この人の恋人になれますように』ですって。このリクエスト読んでいる私が赤面しちゃいそう」
「するな、するな」
「やっぱり、アーリンさん。この直球な感じが好きなんですよ」
「直球、直球って言っているけど、オレの全力投球とかわらない表現だよね。それ。」
「オジサンは黙ってて。私はアーリンさんの願い、想いを感じているのだから……」
「はいはい。勝手に感じていてください。ちなみにアーリンさんのリクエストにお答えするのは、少し先になります。12日後の7月14日木曜日になります」
「え、そんな先になるの。アーリンさんのために、明日とかにならないの?」
「なりません。それに、なっちゃんのリクエストには応えることもできません。それでは、そろそろお時間となりました。また、明日も楽しみにしていてくださいね。それでは、さようなら」
「またねぇ」
バックで流れている軽快な音楽が徐々に小さくなっていく。そして、ブツッという音というタイミングに合わせて、アプリがダウンした。
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