7月1日日曜日1
「あんたね。髪が短いからって『ショートカット軍曹』はないんじゃない」
明日香があきれた顔を見せた。
「だって、ラジヲネームのことは聞いてなかった。あんな短時間で思いつかないよ。それに明日香だってアーリンじゃない」と真琴は反論する。
「私は名前からとっただけ。ラジヲネームってそんなものよ」
そう言いながら、目の前に置かれている水に口をつけた。
「それで、この結果よね」
真琴の目の前に、ラーメンチャーハンセットと餃子が並んでいる。無意識のうちに笑顔がこぼれる。ラーメンの香りが鼻をくすぐる。町中華の店内に響く、何かを炒める音が耳に届く。この状況だけですでにおいしい。
「何が『年上の友人にラーメンチャーハンセット、餃子付きをおごってもらう』よ。ちゃんと説明したよね。なんで、そんなリクエストしたのよ」
「だって、私、お金ないし」
「だったら、あたしみたいにお金が欲しいとか書けばいいじゃん」
真琴はハッとした。確かにその通りだ。自分の発想力のなさに落胆する。
「まあ、いいわよ。リクエストした内容は必ず叶うって私が言ったんだから。責任取るわよ」
「ほんとに、叶うんだね」と真琴は言いながら、ラーメンをすすった。
「でも、立て続けにリクエストをした『新しいスマホが欲しい』はいいアイデアだと思うわ。手に入るか見ものだわ。新しいスマホの方はどうなの?」
「今のところ動きはなし。だけど、未来ラジヲだと、スマホが手に入るきっかけが今日くるって言ってたから」
「じゃあ、夜か?」
「夜はバイトだから……どうかな」
「そう? まあ、このラーメンもそうだけど、リクエストは必ず応えてくれるらしいから。でも、これで本当にスマホが手に入ったら、ホンモノだよね」
そう言いながら、明日香が笑う。
「それはそうとアーリン。あのリクエストはなに?」
「アーリンって言うな」と言いながらも、明日香はニヤニヤしていた。
「『お金持ちの男性に出会えますように』はいいわよ。『友人と友人の想い人が接近できますように』って何よ。あの司会の人……パーソナリティっていうんだっけ? あの人、個人情報がどうのこうのって言ってたから……明日香、小川君の名前を書いてたでしょ」
明日香がラーメンをすすり、咀嚼しながら「番組側もさすがプロね。ちゃんと名前はぼやかしてくれたね。よかった、よかった。小川君に聞かれたら大変だものね」と言い切った後、フフッと笑った。
真琴はそのリクエストを聞いたとき、全身から汗が噴き出した。もとはと言えば、このラジヲを知ったきっかけは小川を尾行したことがきっかけ。小川もこのラジヲを聞いているに違いないのにも関わらず、あの明日香の攻めたリクエスト。
「私の彼氏候補は明日。真琴は今日だって」
そう言って明日香が笑う。
「今日は日曜だよ。小川君に会えるわけないじゃん」
「会える……ね。いいね、恋する乙女ってカンジだね」
顔が熱くなる。が、それをごまかすように、真琴は目の前の餃子を勢いよく口の中に入れる。
「小川君は……ないよ」と真琴はぼそりと言った。
「でも未来ラジヲのリクエストは絶対だよ」
明日香は悪い顔が見えた。この明日香の表情はヤバい。真琴は慌てて話題をずらすことを試みる。不自然にならないように少しだけ。
「ねぇ、明日香。他の人はどんなリクエストをしているの?」
「さあ、どうなのかな? あたしも一昨日がデビューみたいなものだからね。昨日はあたしと真琴だけだったけど、一昨日はベテランさんみたいなリクエストだったけどね」
「へぇ。どんな?」
「簡単に言うと、『アニメキャラに似た人に会いたい』と『好きな人に惚れさせたい』みたいな感じかな」
「惚れさせたいって。じゃあ、その人も実名で……」
「そうね。でも、昨日の放送と同じで、個人情報のうんたらかんたらみたいな感じで、ぼやかしていたわ」
「明日香、わかってて、わざと実名で送ったでしょ」
「さあ?」と笑っていた。明日香は言葉を続けた。
「でも、一昨日のリクエストを出した人は、なんとなく小川君っぽい感じはしなかったけどなぁ」
「惚れさせたいは?」
「そのリクエストの主が、小川君であって欲しいの?」
真琴は言葉を詰まらせた。その反応を明らかに楽しんでいる明日香。
「ま、小川君のリクエストかどうかは、今日わかるんじゃない?」
今日、小川君と接近する?
真琴はラーメンをすすった。しゃべりすぎたらしく、麺が少しのびていた。
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