6月29日金曜日23時58分
その日の夜。
明日香はアプリを起動し、スマホから流れてくる曲を聞いていた。23時58分頃、クセのある口調の男の声が、曲に割り込むように入ってきた。
「ハイ、リスナーのみんな。今日も聞いてくれたかな。そろそろ、エンディングのコーナーだ。もちろん最後はリスナーのリクエストに応えていくぜ。なっちゃん、今日もリクエスト来ている?」
なっちゃんと呼ばれた若い女の声が「みんな、リクエストありがとうございます。今日は多いね。3通も来てる。あ、しかも、初投稿の方もいまーす」
「初投稿ありがとう」
「じゃあ、早速読み上げますね。どれからにしようかな……」
「せっかくだから、初投稿の方からにしようよ」
「そうだね。そうしよう。じゃあ、行くよ」
なっちゃんは少し溜めの時間をつくり、勢いをつけて言葉を続けた。
「ラジオネーム、アーリンさん。初投稿ありがとう」
「アーリンさん、ありがとう」
「ズバリ、『5万円欲しい』だって」
「初投稿らしい内容だね」
「そうですね。どうしましょうか……シゲさん」
「じゃあ、早速、明日お届けします。タイミングはナイショ。アーリンさん楽しみにしていてくださいね」
「次のリクエストは、ラジオネーム流浪の黒猫さん」
「流浪の黒猫さん、ありがとう」
「えっと、リクエストは……『アニメ、美少女ウィッチに出てくる、ウイッチダリアとウィッチマーガレットに似ている女性と出会いたい』ですね。シゲさん、イケます?」
「もちろん。ですが、少しお時間をください。そうですね……3日後の7月2日に出会えるようにセッティングしますね。あ、ただ、出会っても、いきなりジロジロ見ちゃあダメですよ。せっかく出会えたのに、相手に嫌われちゃったらお近づきになれないからね。少しずつ距離を縮めて……友達から始めてください」
「シゲさん。そんなアドバイスもできるんですか?」
「もちろん。こう見えても『気遣いのシゲちゃん』と呼ばれているから。知らなかった? あ、そうそう。この間だってね……」
「えっと……もう結構です。最後のリクエストを紹介しますね。ラジオネーム、ハートハックさん」
「……ハートハックさん、ありがとう」
「あ、今回も個人名が書かれた投稿ですね」
「なっちゃん。個人情報そのまま読んじゃあだめだよ。略称か何かでわからないように読んであげてね」
「はーい。では、リクエストを読みますね。えっと、これでわかるかな? 『ちぃちゃんがオレに惚れますように』です。直球なリクエストですね」
「オレはこういうの嫌いじゃあないですよ。リスナーの皆さん、こういうリクエストもアリですからね。じゃあ、ハートハックさんのは、2日後の7月1日にリクエストをお応えしますね。但し、このリクエストにお応えするためには条件があります。たぶん、ハートハックさんは、ちぃちゃんといつでもお話できるような距離感におられる方だと思いますが、愛の告白は絶対に7月1日まで我慢をしてくださいね。フライングして告白をするとフラれます。注意してください」
「ライオンの目の前に高級生肉を置いて、ライオンに食べるなって言ってるのと同じじゃあないですか」
「なっちゃん。例えがわかりにくいし、なんか怖い。さすが、肉食系女子だね」
「あたし、肉食系じゃあないですよ。こんな草食系を捕まえて。時々、お肉が食べたくなるだけですよ」
「そういう女子が一番こわいんだよねぇ。あ、そんなことを話しているうちに、番組終了の時間となりました。では明日、また、この時間にお会いしましょう」
「またね」
流れていた音楽の音量が上がる。そのあと、不自然にブツッという音と共に音声が聞こえなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます