第四話

 朝食の呼びかけで起きたメリスは、借りた四葉柄のパジャマから、洗濯され綺麗に畳まれた自分の服をありがたく着た。

 支度を終えたメリスが部屋を出ると、同じく綺麗に洗濯された服を着たレイヴンが壁に寄りかかって寝ていた。

 ぺちぺちと彼の頬を軽く叩く。

「朝食、食べそびれるよー、起きてー。というかこんなとこで寝ないでー」

 薄く目を開けたレイヴン。次の瞬間、ぱちっと目を開いて微笑む。

「ああメリス、おはよう。いい朝だね」

「曇りだけど」

「天気じゃないよ。じゃあ朝食、行こう」

 昨夜と同じ広間へ向かう二人。すれ違う人に朝のあいさつをしつつ到着。

 広間は昨夜の立食スタイルとは違い、いくつかの木の丸テーブルとそれを囲うように置かれた背もたれのある椅子四つがそれぞれ並べられていた。

 そのテーブルの一つに、アキと長老が座っていた。メリスたちに気づいたアキは、「おいで」の手振りをして二人を呼んだ。

「おはよう」

「おはようございます。何から何までお世話になっててすみません」

「洗濯まで、ありがとうございます、ほんと!」

「そのように畏まらんでもいいぞぉ。さあ、座りなさい。共に食べよう」

 お礼を言い席につく二人。見計らったかのように、長老の従者が二人の朝食を運んでくる。

「あ、ありがとうございます……」

 申し訳なくなる一般市民の二人。とりわけ、レイヴンは孤児院育ちで世話を焼かれ慣れていないので事あるごとに感謝の言葉を口に出す。

 メリスがパンを口に入れたとき、長老が言った。

「つかぬことをお聞きするが、メリスさんとレイヴンさん、お二人の出身はメル国かね?」

 口に物が入っているときは喋れないので首を横に振るメリス。

「ヘー国です」レイヴンは答えた。

「ほう、ヘー国から……。それでは、十数年前にへー国に逃げた研究者のお尋ね者の話はご存知か?」

「昨日、アキから聞いて、初めて知りました」

 レイヴンが答える。メリスはまだパンを飲み込んでいないので、うんうんと相槌を打つ。

「そのお尋ね者はリカルダ。ヘー国にばら撒かれた病原菌の作製者だ」

 首を傾げるメリス。「そうなんですか」とレイヴン。

「知らないのも無理はないな。何しろ君たちの年くらい前のことだ。しかし、その様子だとその病原菌の犠牲にはならんかったようだな。良かった良かった」

 そう目を細めて笑う長老。

 メリスとレイヴンは、それに微かな懐かしさを覚えた。おじいさんとはそういうものなのだろうか。

「しかし、メル国側はその者を捕えるのをまだ諦めていないようで、聞き込みも兼ねてヘー国を出ているヘー国出身者に片っ端からちょっかいをかけているようなのだ。君たちも気をつけるんだぞぉ」

 顔を見合わせる二人。もしかして昨日の左腕負傷紫帽子男、あれが。

「もう会ったかもしれないです」

「何ぃっ?」

「で、追い払っちゃいました」

「なんだとっ? アキよ、どうして捕えなかった?」

「すみません……まだ半人前で、情弱なもので……」

 腕を組んで唸る長老。

「これはちと、大変かもしれんな……」

 これは、この面子での旅とちょっかいを掛けられることへの懸念だが、それを聴き取った者は、いなかった。

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