第二話
ピザを平らげ、代金を払わず飲み屋を出た一行は、山道を歩き始めた。高くも急でもない山にもかかわらず、今まで特筆するほどの運動をしていなかったメリスは、中腹あたりでもうへばっている。よくもそのような体力で旅に出ようとしたものである。
「大丈夫? メリス。ここらで休憩する?」
「箱入り娘だったようだな」
剣の訓練を日課としているレイヴンとプロ旅人のアキは、まだまだ余裕な様子だ。
「う、ん。地図、を見て。良さげな、場所あれば、そこで」
いつも涼しげなメリスも今は汗だくである。
そんな中、いきなり、
「誰だ」
レイヴンは何者かの気配を感じ、メリスの前に立ち厳戒態勢を取る。アキもマントの下に腕を入れている。
と、前方の茂みから姿を現したのは、紫色の深い帽子を被り顔を隠して左腕を力なくぶら下げた、細身の女性。
「つ、連れがいるなんて聞いてるないぞ」
かと思ったら男性だった。細身=女性、という先入観は即刻捨てよう。——右手にはナイフ。
「誰だと聞いているんだ」
レイヴンが剣を構えながら睨む。
「見るりゃ分かるだろう? 俺らをこるんな目に合わせたんだからよぉ!」
斬りかかってくる紫帽子の男。
「メリス、知り合い?」
剣で受けながら聞くレイヴン。
「いや初対面」
「じゃあ」と剣を振りかざすレイヴンを、メリスは止めた。
紫帽子の男の、左腕の怪我。
「ここは私の出番かも。じゃあ読めたらあなたの勝ち。これ、三回読んでみて」
どこからともなく紙を取り出すメリス。紙には『炙りカルビ』。
「あ、これ『あぶり』って読むよ」
「舐めるなる! どこ出身だと思ってるる? 誇り高きメル国だ! いくぞ!」
なんの疑いもなく始める紫帽子の男。
「炙りカルビあぶるりカルビあるびかぶり」
「あぁー。んじゃ次ね。はい。あ、これは炙りカルビ言えなかった人には無理かも」
『魔術師手術修行中』。
「それはどうかなる。いくぞ。魔術師手術修行中魔術師手術修行中魔術師手術修行っ中!! お?」
紫帽子男は目を丸くしながら、自分の左腕を曲げ伸ばしし始めた。「治っ、た?」
「最後少し怪しかったけど、あなたが勝ち取った回復だよ、おめでとう」
「メリス、これは別にメリスじゃなくてもできたんじゃないの?」
「うーん、私もそう思ったんだけど、どうやらそうでもないみたいで」
「今日のところは!」
紫帽子男が声を張り上げた。
「腕が治ったからステーキを食べるため見逃してやるが……一人治したからといって罪が消えるとは思うなよ」
そう言って男は、先ほど出てきた茂みから走り去って行った。
「罪……? それにしてもこの山道を走るのか。その体力を分けてほしい」
「落ち着いたら一緒に体力作りでもする?」
レイヴンがニコニコと提案する。
「えぇ……気が向いたら。あ! あそこにベンチが! 先行って座ってるね。ゆっくり来て」
駆け出すメリス。
「急に元気になるな。ところで」
アキがニヤリとしてレイヴンを見る。
「さっき僕がついてきた理由を聞いたとき、目を泳がせたわけをお聞かせ願おうか」
「だ、だからさっき言ったじゃないか。剣を活かせると思って……」
「それだけなら一人でも行けたはずだ。なぜわざわざメリスと共に来たんだ」
「それはー……メリスに言わないでくれよ? そのー……俺、孤児院育ちで、しかもあの国の人間じゃないっぽくて」
「確かに、言語能力があの国ではなさそうだとは思っていたが。まあそれはメリスもだが」
「そう。だから他の子どもたちとの差は感じていた。でも、あの街は仲間意識が強いんだ。どこで仲間認定されるかっていうと、会話内容さ。幼い頃は良かったが、普通に話せるようになって、部外者認識されると身寄りのいない俺は生きていけない。そこで周りに合わせていたんだけど。その、さっき話したメリスを初めて見たとき、彼女は僕と同じだと思ったんだ」
「言語能力が?」
「うん。だから話しかけたかったんだけど、メリスの話の通り、除け者にされてたからできなくて。で、まあそのチャンスが来たのは、メリスの旅出発時だったってわけ」
「話したかっただけにしては、旅についていくって重くないか?」
「アキは、言語能力が全く違って話が噛み合わない人に囲まれて生活したことある?」
レイヴンは道端の石を蹴っ飛ばしながら言う。
「ふむ……ないな」
「じゃあわからないだろうね」
「しかし、そんな環境で育ってきたのに、どうやってその水準に達したんだ?」
「外国の本や外部の人が持ってきてくれた本を読んだんだ。誰にも読まれていなかったけどね。みんなが読むような絵本に隠して読んでたよ」
この時代からその裏ワザが存在していたのか。いや、彼がパイオニアかもしれない。
「普通に話して理解されるのがこんなにいいものだとは思わなかったよ! ついてきて正解だった」
そう言うとレイヴンは歩くスピードを上げ、メリスの元へ向かって行った。
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