第29話 気高き香りの令嬢は、愛しき者についていく

 ――こうして、一連の裁判は終え、私達は法廷を後にし、馬車に乗ると一路城へと向かった。

 謁見の間で何があるのか不安だったけれど、もうあの煩わしい元家族だった人たちとの縁がきれて、今は清々しい気分よ!

 お母様、お祖父様、私……戦い抜いたわ‼



「でも、謁見の間に行くなんて……何があるのかしら」

「大事な話があるのだろう……。陛下の御心は一家臣が知れるものではないからな」

「ふふふ、そう固くならなくても、悪い話はないと思うわ」



 マーヤ様に言われ、私達は流行る心臓を抑え城に到着し、そのままの謁見の間に通される。

 既に椅子に座られ待っておられた陛下に最大限の礼を行うと、マーヤ様がくすくす笑い出した。



「陛下、そのようなお顔では若い二人には心臓に悪くてよ?」

「む、それはすまなかったな……。エドワード・エルメンテス及び、アメリア・ダグトリス。本日は大儀であった」

「「え?」」

を出したようなものだからな。そうでなくとも、家の乗っ取り等許せる問題ではない」



 こうして始まった国王陛下のお言葉。

 私達は謹んで話を聞くことになった。

 無論、どのような言葉が飛び出しても良いように、心に小さな覚悟を潜めて……。



「時に、エルメンテス伯爵は、ダグリスト伯爵を妻にしたいのか?」

「出来ればそう考えておりますが、問題が……」

「女伯爵であることだな?」

「それもありますが、まだ彼女を口説き落としている最中と申しますか……」

「ええい、煮えきらんな。はっきり申せ」

「お兄様、急かしてはなりません。恋とは直ぐに成就することではございませんわ」

「しかしだな……」

「いえ、これは私が悪いのです。はっきりと、エルメンテス伯爵の御心を受け止めれば済むだけの話ですのに、家の問題が横たわっていては、無礼にあたると」



 はっきりと告げると、エドワード様がびっくりした様子で私を見てきたわ。

 あらあら?

 口説いてきたのはエドワード様ですのに、今更驚きますの?

 

 

「でも……アメリア。ダグリスト家の当主に相応しいのは君だ」

「もうその座には興味はありません。私が守りたいのは、王都の屋敷ではなく、エルメンテスの土地の空気と人々――。香りの届く、貴方が守る土地です」

「――アメリア!」

「あらあら、でしたら私も王都とエルメンテスを行き来しないといけませんわね。いっそ、エルメンテスに居を移すのも良いかも知れませんわ」

「ふむ、ならワシも引退したらエルメンテスにいこうかの……」

「「陛下がですか⁉」」



 これには私もエドワード様も驚いたけれど、陛下のお歳を考えたら……妥当なのかも知れない……。

 既に成人した王太子様もいらっしゃるわけだし、なんだったらお孫様もいっしゃるわけだし……。

 老後はゆっくりと、妹君のマーヤ様と一緒に、エルメンテスで過ごされても良いのかも知れないわ。



「その時は是非……」

「ええ、エルメンテスは今では毒霧も晴れて、清らかな新しい風が吹いています」

「うむ……。君たち二人を祝う、新しい風も吹いておるだろう」



 陛下にそう言われ、思わず二人して顔が赤くなったわ……。

 私達の未来……未来か……。

 ちらりとエドワード様を見ると、彼も私の方を見ていてお互いに顔が赤くなるわ。

 


「ふふふ、初々しいのう!」

「たまらないでしょう? この様子を間近で見ていきたいと思いましたの」

「マーヤは羨ましいのう。ワシも早く引退するか!」



 そんな話がお二人でなされ、私達はエルメンテスに帰るまでの間、王城の客間に止まらせてもらうことになった。

 これまでの日々を思うと、色々な出来事があって、色々な出会いもあった。

 そして何より――エルメンテスの毒霧を払い、そして彷徨える魂を導くことが出来た自分を褒めてあげたい。

 

 それに――今日は色々なことがあったわ……。

 ひとりお風呂から上がってベッドに横になると、疲れが抜けていくような……緊張感が抜けていくような気がした。


 それと同時に――彼との未来を、私は望んで良いのだとも、理解もした。

 

 私は〝アメリア・ダグリスト〟ではなくなるだろう。

 でも、私が受け継いだのは「家を継ぐ」という〝形式〟ではなく、〝香りの名と誇り〟を継いでいくことだわ。



 そう言えば、部屋に入る前にエドワード様とこんな話をしたわね。


 

『君はどこにいても〝香りのダグリストの名に相応しい女性〟だ。だが、俺との婚姻で捨てることになたっとしても……その名誉ある名は、君そのものだと、私は思うよ』

『ええ。ダグリストの名は、もう私のもの。でも、私の居場所は、貴方の傍だと……香りがそう告げているわ。私はダグリストの当主で今はありながらも、本質は〝香りの令嬢〟ですもの。香りに従うわ……』


 素直な気持ちを告げると、エドワード様は私をぎゅっと包みこんでくれた。



『〝気高き香りの令嬢〟に、心から感謝を……』




 ――心から、感謝を。

 ――そして心からの敬愛と、心の底からの愛を。


 そう言って去っていった彼は……どんな男性よりも素敵だった……。



「ふふ……。こんな私でも、愛を見つけることができましたわ……お母様」



 本当に好きな人と結婚しなさいと言って下さったお母様。

 私、エドワード様だったら信用できる、信頼出来ると思うの。

 共に寄り添い、共に笑い、共に泣き、そして、香りを慈しむ。

 それが出来る男性だと、感じているわ……。



「私も彼に……」



 ――心からの敬愛と、心の底からの愛を誓うわ……。

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