第1話 ママに連れ出されていく話
日曜の午前9時半。平日ではないからラッシュはない。
電車に乗り込むと席はちらほらと空いているが、2人揃って座れるところは無かった。
ふと、こちらを見ていたハゲで太ったオジサンが、何か嫌らしい目をして 身体を隣に詰めた。ギリギリ二人分座れそう。でも、何かそのオジサンの表情が気になる。自分がその隣に座るのは嫌だしママを座らせるのも嫌だ。
でもママはそれを好意に取ったのか会釈して座ろうとしたが、ボクはママの腕を取って引っ張った。
「ママ、混んでいるから隣に行こう」
「あら、いいの? 隣は女性専用車よ」
「いいの! ボクだって女の子だよ」
「まぁ、いつも女の子扱いされるの嫌がるクセに」
「それとこれとは、別」
自慢ではないが、ママは美人だ。昔はタカラジェンヌだった。具体的な活躍は知らないけど。
そのタカラジェンヌは辞めた後にパパと結婚したが、未だにその魅力は
チっと落胆するそのオジサンの視線を、ボクは特に気にするでもなく無視するでもなく、さらっと
入ってみたら、当たり前だが女性ばっかりだった。一瞬、みんなの視線がこっちを向いた。
『うわぁ』
ちょっと嫌な感じ。
ボクは小学6年の正真正銘女の子だが、膝が破れたダメージドジーンズに派手なスタジャン。髪も短く、見た目あんまり女の子要素が少ない。
でも親同伴だったら、男の子でも女性専用車乗ってもいいんだよ! と自分に言い訳して、入って行った。
『そうか、女の子に見えないのは仕方ないとして、小学生にも見えないのか』
実は背も150オーバーで、ちょっと大人びて見えるかな。
それでも、やはり女性専用車だからか、他の車両よりは空いていた。2人揃って座れるところも幾つかあった。
「ママ、ここにしよ」
「そう?」
「いいんだよ。ボクまだ小学生なんだから」
これはあえて、他の乗客たちにも聞こえるように言った。
女の子に見えないのは仕方ないけど、親同伴の小学生であることだけは主張しておかないと。
ママはもっとボクに女の子らしくなって欲しいと思っているみたいだけど、残念ながら、そこは曲げられない。
もしウチに子供がもう1人いればなぁ、と思うけど、残念なことにそれっきり。ボクは一人っ子。下に妹も弟も出来なかった。
「ママはもうちょっと、あなたが性別相応になってくれたらと思っているだけなんだけどねぇ」
「分かっているよ。だからこうして今日、バレーの体験教室に来たんじゃない。でもだからって中学でバレーボール部に入るかどうかは別だからね」
女子バレーとかテニスとかも、陰湿な女の園っぽいイメージがある。
「本当に、中学に体操部があればねぇ」
「そんな事言ったって、無いものは仕方ないじゃない。1から作るのも嫌だし、だったらまだその経験生かせる柔道部に入る方がいいよ」
「よよよ……」
ママは落胆して、頭に手をあてる。
ママとしてはボクが小さい頃からずっと体操教室に通って頑張っていた事は理解してくれている。
体操は大好きだけど、通っている他の女の子たちのメンバーと険悪になり辞め、何か今さら他の体操教室に行くのも気が乗らず、今に至る。
今度行く中学に体操部があれば気分一転出来たかもしれないけど、意外と体操部がある中学って少ないみたい。色々な機材も必要だし、それら体操の機材・設備って高いからね。
仕方なく、それ以外の運動部調べたけど、それに近いものは柔軟とかバランス感覚が生かせる柔道かな? と思って、伝手で入学前から体験練習させて貰ったけどママは大反対。あんな男くさい部活で、しかも男子相手に取っ組み合うなんて論外! と思っているらしい。
「今、その柔道部から分派して、相撲部作ろうとしているみたいだから、いっそそっちに行こうかな?」
「やーめーてー! アユミちゃんお願いだから、そんなママの知らない世界に行かないで!」
「ボク、股割りも出来るから、いいと思うんだけどなぁ」
「よよよよ……」
また、ママは落胆して、頭に手をあてる。
仕方なくママの頼みで、スポーツセンターでやっているバレーボール教室の体験練習に行く事にした。バレーにあんまり興味はないけど、やってみて面白そうだったら続けても良いという条件で。
でもバレーに興味は出来ても、体操教室の時みたいな陰湿な女子独特な雰囲気だったら嫌だな。
どうもボクは、そんな女の子で気の合う友達は少ないし、むしろ男の子に交じってサッカーする方が好きだ。
でも中学校のサッカー部に女子は入れないし、女子サッカー部も無い。
いっそサッカー部のマネージャーしようかな?
ちなみにバレー教室のある市民スポーツセンターはちょっと離れていて、二駅ほど電車移動する必要があった。
一人でも行けるけど最初だからという事で、母親同伴で体験教室に参加する。
ガタンガタン。
適度に揺れ、適度な騒音が、眠気を催してくる。
ふとその振動に誘われてか、意識が遠くなってきた。
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