第41話 神樹の枝
「えーっと……その質問は、どういう意味で……?」
「桜花戦士は人間を本気で攻撃することはできないけど、斗悟はできるのかなって」
「それは、オレが適合率によって選ばれた桜花戦士じゃないからってことか?」
斗悟はあくまで〈
つまり適合率による「善性の担保」はされていないわけだから、理仁の疑問はもっともだ――まぁ、これまでのやり取りから「コイツなら人間を害しかねない」と思われたのだとすると結構ショックだが。
だがどうやら理仁が聞きたいポイントは別のところにあったらしい。「それもあるけど」と前置きして続ける。
「一番気になったのは、斗悟は体内に『神樹の枝』を埋め込まれていないのに桜花武装を使えるから、かな」
「『神樹の枝』って……確か、『救世の聖女』が遺した力の結晶の一部だよな。適合者に授けられて、桜花武装の源になるっていう。確かにオレにはないけど、それが何か関係あるのか?」
「桜花武装には多分、濫用を防ぐストッパーが
それが『神樹の枝』だと、理仁は言った。
「前に防域局から、100年前に使用されていた桜力兵器を使えるようにできないか、って整備を頼まれたことがあるんだけど」
「桜力兵器……ってなんだ? 桜花武装とは違うのか?」
「『救世の聖女』が存命だった頃、つまり旧文明の末期に用いられていた対イーター兵器の総称ですね。当時は『救世の聖女』が生み出す桜力の結晶を弾頭に加工してイーターに撃ち込むのが人類側の主な戦法でした。今と違って、普通の人間が桜力兵器で戦っていたんですね〜」
なるほど……。『救世の聖女』以外の人間がどうやってイーターに対抗していたのか気にはなっていたが、そういうことだったのか。
「でも桜力兵器は、『救世の聖女』から無尽蔵に供給される桜力がなければ使い物にならない。彼女が亡くなって、遺された桜力結晶が『神樹』になったわけだけど、神樹からはそれまでのように直接桜力を得ることはできなくなってしまった。
だから桜力兵器はずっと無用の長物だったんだけど……一年ぐらい前からイーターが強くなり始めて、なんとか人類側の戦力を増強できないかって、再利用の検討がされたんだって。それでぼくに、なんとかしてって依頼が来た」
「な、なんとかしてって……できるのか? そんなの」
「結果としてはできなかった。でも、試す過程で分かったことがある。
要は攻撃性が付与された桜力が必要なんだけど、現状は桜花武装以外にそれを取り出す方法がないのが問題だった。だから『適合者の体内にある神樹の枝から攻性桜力を抽出する』機構を造った」
「そんなものを造れたのか⁉︎」
理仁はあっさり頷いた。
「理論はずっと前から考えてたから。
防域局がその抽出機構を補助部隊員の子に使わせて桜力を取り出せるかテストした時、その子の体内の『神樹の枝』が
体内に鋭い棘みたいな結晶が生成されて、その子は危うく臓器を損傷する大怪我を負うところだった」
「な……!」
「当然、そんな危険なものを使うわけにはいかないから、桜力兵器の復活計画は中止になったんだけど。
……『神樹の枝』が暴走した理由は、やっぱり桜力の濫用を防止するための緊急措置と考えるのが一番自然だ。
つまり『神樹の枝』には、想定外の方法で桜力を濫用されそうになったとき、意図的な暴走によって
――なんだ、それは。
理仁の言った言葉の意味を咀嚼するほど、心拍数が上がっていくのを感じた。
「それは……つまり……、桜花戦士は――あの子達は。体に爆弾を埋め込まれて戦ってるようなものじゃないか! それも、本人達が知らないうちに!」
「お、落ち着いてください斗悟さん。コレもあくまでご主人サマの仮説、まだそうと決まったワケじゃないんですから」
思わず身を乗り出した斗悟の剣幕に、プリムが少し怯えている。斗悟は深呼吸をして座り直した。
「……ごめん。だけど、意図がどうであれ、少なくとも暴走して自分の体を傷つけるかもしれないものが埋め込まれた状態でみんなは戦ってるってことだろ? そんなの……!」
「だから、桜花戦士は人間と戦えない――いや戦わない方がいい。『神樹の枝』が暴走する条件がよくわからないし、危険すぎて検証もできない。最悪、『
「…………」
「だからきみに聞きたかった」
ガラス玉のような理仁の瞳が斗悟を見据える。
「きみには『善性の縛り』も『神樹の枝』も適用されない。複数の境界線を跨ぐイレギュラーのおかげで、リスクを踏み倒して桜花武装を振るうことができる唯一の存在だ。だから……
……そういうことか。
もしも『
まだ『
そう踏まえた上で。
斗悟は答えた。
「戦える。異世界でも人間と戦った経験はあるしな。……だけどそれは、最後の手段だ。話し合う余地が一切なく、オレが戦わなければ誰かが犠牲になってしまうという状況――そうなった時にだけ、守るための戦いをする」
「そう」
「でも、できればそんなことにはなって欲しくないな」
「ぼくもそう思う」
呟いた理仁の表情は相変わらず読めなかったが、心からの言葉であることは信じられる気がした。
「なんか……すごい疲れた……」
理仁の部屋を後にした帰り道で、斗悟は思わず呟いていた。
期せずして膨大かつ深刻な情報を流し込まれて、頭も感情もオーバーヒートしそうだ。
だが理仁との繋がりを得られたことは大きい。これからもきっと色々頼りになるだろう。そんなことを考えていたら、不意にリーフに電話が入った。
相手は――比奈子だ。
珍しい。メッセージなら何度かやり取りしていたが、電話が来るのは初めてではないだろうか?
少し緊張しながら応答する。
「もしもし? 比奈子か?」
『やっほー、勇者くん。元気?』
「元……気、だよ。どうかしたのか?」
『んー、特別どうってワケじゃないけど。明日の午後とか暇かなーって』
「ああ、空いてるよ」
『やった! じゃあさ……』
比奈子は、イタズラっぽい含みを持たせた甘い声で囁いた。
「明日、あたしとデートしてくれない?」
————————あとがき————————
いつまで堅苦しい話しとんねんコイツらぁ!
早くデート行きたかったのにぃ!
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