第24話
「板井さんのこと、夏鈴に聞いたよ」
仕事が早いなと感心する俺に目黒は言った。
「友達でも何でもないみたい。ただファッションのアドバイスをしてあげてただけだって」
「……板井ってギャル系なのか?」
「見た感じは真面目なタイプだよ。単にイメチェンしたかっただけじゃない?」
――イメチェンねぇ。
「気持ちは分かるよ。私だって、自分の見た目が嫌になる時あるし」
「だから塩沢にアドバイスを求めたと」
「夏鈴って、中身はあれでも、見た目は抜群に可愛いから。髪型やメイクを真似してる子、結構いるよ」
言われてみれば確かに。
うちのクラスも塩沢のようなギャル系女子が急増している気がする。
「これも一種の同一化ってやつだよな」
「何だかんだ言って、みんな、夏鈴みたいになりたいのかもね」
「可愛いから?」
「ほら、志伊良だって可愛いって思ってるでしょ? 女子はたいてい、君みたいなイケメンに可愛いって思われたいんだよ」
「目黒も?」
「私は例外。イケメンは好みじゃないから」
良かったな、胆沢。チャンスはあるぞ。
話がそれてきたので元に戻す。
「なら余計、板井は塩沢に頭が上がらないだろうな」
「まだ夏鈴のこと疑ってるの?」
「あんなメッセ、板井に送れると思うか?」
目黒はきまり悪そうに視線を逸らすと、
「私に聞かないで。誰も貶める気ないから」
「塩沢のこと嫌ってるはずだろ」
「前はね。でも今は同情してる。夏鈴が君に振られて、あんなに落ち込むなんて思わなかったから」
目黒の考えはイマイチ理解できない。
「ざまぁみろって思ってる奴もいるんじゃないのか?」
「それ、志伊良が言っちゃダメでしょ」
目黒に睨まれて、つい無関係な第三者(草士)の気分で発言してしまった自分を恥じる。
「誰かに聞かれたら、確実に性格悪いって思われるよ」
その通りだ。タスクは甘神の気を引くために、塩沢を利用した。そんな塩沢から脅されているから助けてくれと目黒に泣きついている時点で、カス以外の何ものでもない。それでも俺(草士)はタスクを助けようと決めた。
元の身体に戻るために。
「板井さんのことは、これ以上聞かれても私には答えようがない。彼女のことよく知らないし、話したこともないから」
「目黒の周りにいる女子の評価は?」
ずるい聞き方するねぇ、と目黒は観念したように口を開く。
「大人しいけど優しくて、正義感の強い子だって。以前、彼女の前で夏鈴の悪口を言った子がいて、板井さん、その子にものすごく怒ったそうだよ」
俺が黙っていると、目黒は至極まともな忠告をしてくれる。
「板井さんと話してみなよ。そのほうが早い」
「なんで
「それは聞かなくてもいいかな」
首を傾げる俺に、
「君の番号、知らない子のほうが少ないから」
さらりと恐ろしいことを告げる。
「空で暗記してる子もいるよ」
「……目黒は俺をビビらせたいのか?」
「私は事実を言ってるだけ。志伊良だって自覚してるでしょ」
「もっと危機感持てって?」
「そういうこと」
…………
「ほら、あの子が板井さんだよ」
あとは自分でどうにかしろとばかりに目黒に背中を押されて、俺はイケメンに告白する女子みたく走り出す。
幸い、板井は人気のない場所で本を読んでいた。自販機横にあるベンチに、隠れるようにして座っている。
一度も染めたことがないような長い黒髪、顔は伏せられていてよく見えないが、青白い肌をしている。目黒が真面目な優等生タイプなら、板井はさながら文学女子といった感じか。
「何の本を読んでるの?」
いきなり本題に入るのもなんなので、軽く世間話から始めようとするが、
「し、し、志伊良君……」
そのままいそいそと本をしまい、立ち上がると、一目散に逃げ出してしまう。
「おいっ、何で逃げるんだよっ」
咄嗟に追いかけようとした俺を目黒が止めた。
「やめなよ、志伊良。板井さんを追いつめないで」
「追いつめるって、俺まだ何も……」
「見て分からない? 板井さんはああいう子なの。ものすごく内気で、男子とまともに口も利けないんだから」
それは知らなかった。
怖がらせて悪かったなと思わないでもないが、
「だったら前もって教えてくれよ」
「百聞は一見に如かずって言うでしょ」
「なら、あのメッセはどう説明するんだよ?」
「誰かが板井さんのスマホを盗んで送ったとか?」
ありえない話ではないが、それはそれで腑に落ちない。
――それに板井の顔って、どっかで見た気がするんだよな。
「ちなみに、ジキル博士とハイド氏だから」
「何が?」
「板井さんが読んでた本のタイトル。知りたがってたでしょ?」
俺でも知ってる有名な本だが、今はそんなことどうでもいい。
悶々とした悩みを抱えたまま下校時間を迎える。
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