ニコの真実

@tdnatmoksiht

第1話

あぁ、今すぐ叫び出したい。

私は知ってしまったのだ。

私に関するある重大な事実を。


私は田舎町の中でもショッピングモールが近く、利便性の良い土地に生まれた。

いつもニコニコしているからという理由でニコと名付けられた。

幼い頃から両親は好きな物を与えてくれたので、何不自由なく育った。私は完全に愛されていた。私は足が速いのが自慢で、運動神経も良かった。両親は私のそんなところを褒めてくれた。我が家では猫を一匹飼っていたが、いつも私の事をじろりと見てくるだけで仲良くはなかった。

家の雰囲気が変わったのは妹が生まれてからだった。両親は妹にかかりきりになった。もちろん私だって妹は可愛かったし、妹が泣き止まない時は傍に行ってあやしてあげた。しかし、私もまだまだ幼く、構ってほしかった。両親もギスギスする事が増えてきて、よく仲裁に入った。私は家族に貢献していたと思う。私なりに家族の幸せを願っていた。それなのに。


それなのに、妹が小学生になった頃から両親は私を家に残して、妹と外出するようになった。妹は頭が良く、塾通いが始まったのだ。私と猫が残された家には居心地の悪い静かさが漂った。はじめの頃はあまり気にしていなかったが、次第に不満がたまっていった。なんで私だけ。私だって二人の子供なのに。心が悲しさで一杯になり、ある日を境に外出する3人に行かないで!寂しいよ!と叫んで引き留めるようになった。だけど、両親は頭を撫でてくれるだけで連れて行ってくれることはなかった。胸が張り裂けそうで、家の中を暴れ周りぐちゃぐちゃにすることもたびたびあった。そんな事をしていたら、リビングのテーブルに監視カメラが置かれるようになった。そして私が寂しそうにしているとカメラが起動し、両親が声を掛けてくれた。久しぶりに二人の優しさに触れたような気がした。


妹が中学生になる年、私は体がだるくなることが増え、一日中眠っていることが多くなった。そのうち、何度も嘔吐するようになった。両親も妹も私を心配し、看病してくれた。日に日に衰弱する私を見かねて、2人は病院に行こうと言った。そして私は動物病院に連れて行かれた。なぜ?頭が混乱した。病院の待合室にはペットを抱えたご婦人が座っていた。私の番になり、お医者さんは私をくまなく診察してこう言った。「歳をとった猫特有の病気ですね。」


今だにあの時の衝撃は忘れられない。私はこれまでの生活を思い返していた。もし。もし私が猫だとすると、あまりに合点が行くことが多かった。あまりに運動神経が悪すぎる家族たち。私と家族とで異なる食事。そうか、私は決して愛されていなかった訳ではなかったのだ。むしろかなり愛されていた。自分の事を人間と勘違いするほどに家族同然に接してくれていたのだ。寂しがる私のためにペットカメラまで買って。そのことに気がついて私はとても嬉しい気持ちで一杯になった。もう諦めていた愛を私は自分の真実と引き換えに手に入れたのだ。

あぁ、叫び出したい。私がどれだけ愛されているか、私の家族がどれだけ思いやりにあふれた人々かを。

さて、この一件を通じて私はある事を学んだ。良く聞いて欲しい。この世界には、自分の姿を映すことのできる鏡というものがあるのだ。

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