蛇、初陣にて思ふ──「手、欲しい」


「夢見させてからの現実はえーよ! まずは蟻からスタートかよぉぉぉおお!?」


目の前の巨大蟻は、獲物を見つけた肉食獣のように、漆黒の複眼をギラつかせながら、カチカチと顎を鳴らして威嚇してくる。一匹ならまだしも、奥にはさらに二匹の同族が控えている。まるで「お前もこの迷宮の肥やしにしてやる」とでも言っているかのようだ。


蛇としての本能なのか、恐怖に体が硬直する。しかし、このまま棒立ちで喰われるのはまっぴらごめんだ。俺は元社畜。社畜は理不尽に耐え、理不尽を乗り越えてきたのだ。相手が巨大蟻だろうと、バジリスクになった今、もう誰にも文句は言わせない!


「クソッ、こっちだってタダじゃやられねぇぞ!」


俺はバジリスク。伝説の魔獣だ。何か、こう……必殺技みたいなものがあるはず!

直感的に、意識を「眼」に集中させた。全身の血液が目に集まるような、熱くて重い感覚。視界がさらに赤く、禍々しく色を変えていく。

その瞬間、脳裏に声が響いた。


**【スキル:石化の眼 Lv1 を発動しますか? YES / NO】**


「YESに決まってんだろぉぉおお!」


俺の返答と同時に、両の瞳から禍々しい緑色の光が放たれた。それはまるで、視線そのものが物理的な武器になったかのような感覚。

最初に突っ込んできた巨大蟻の複眼と、俺の石化の眼が交錯する。


「カチャッ……!?」


巨大蟻は、まるで時間が止まったかのように動きを止め、その場で固まった。

その漆黒の甲殻は、見る見るうちに鈍い灰色に変色し、生き物特有の艶を失っていく。

そして、数秒後には、まるで作り物のような精巧な石像と化していた。その顎はカチカチと威嚇する形で固まり、二度と動くことはないだろう。


「う、嘘だろ……マジで石になった!?」


自分の能力ながら、その効力に俺は驚愕する。前世のゲームやアニメ知識では知っていたが、実際に体験するとその破壊力は想像を絶する。

これはまさしく、問答無用の即死チートスキルだ!


だが、感動している暇はない。残りの二匹が、仲間の異変に気づいたのか、さらに警戒を強めて間合いを詰めてくる。

俺は急いで体勢を立て直し、再び奴らに視線を向けた。


**【スキル:石化の眼 Lv1 を発動しますか? YES / NO】**

**【スキル:石化の眼 Lv1 を発動しますか? YES / NO】**


連続でスキルを発動し、立て続けに残りの二匹も石像に変えていく。

周囲に転がる三体の巨大な石像。そこにはもう、生き物の気配はなかった。


「はぁ、はぁ……やるじゃねぇか、俺の石化の眼……!」


初めての戦闘、初めてのスキル行使。肉体的には疲労感はないが、精神的な消耗が激しい。

だが、その消耗を吹き飛ばすかのように、再び無機質な声が脳内に響き渡る。


**【迷宮大蟻(ダンジョン・アント)を討伐しました。経験値を獲得しました。】**

**【迷宮大蟻(ダンジョン・アント)を討伐しました。経験値を獲得しました。】**

**【迷宮大蟻(ダンジョン・アント)を討伐しました。経験値を獲得しました。】**

**【レベルが上がりました!】**


---


## **【現在の種族:若きバジリスク】**

**【レベル:2】**

**【存在階位:下級魔獣】**

**【次の進化までの経験値:75】**

**【スキルポイントを1獲得しました】**


「レベルアップしたぁぁぁああ!?」


ステータス画面を確認すると、確かにレベルの項目が「1」から「2」に上がっている。

次の進化までの経験値も減っているし、スキルポイントなるものまで手に入れた。

このポイントを使えば、きっと新しいスキルを習得したり、既存のスキルを強化したりできるのだろう。


「やべぇ……これは、意外とイケるぞ……!」


まさか、社畜時代の地味な俺が、異世界転生した途端に伝説の魔獣となり、初戦闘でレベルアップするとは。

土の匂いが立ち込める薄暗い迷宮の片隅で、俺はひそかにガッツポーズをした。


これから先、一体何が起こるのか。

不安がないと言えば嘘になるが、それ以上に、この「バジリスクとしての俺」の未来に、確かな期待が芽生え始めていた。


「まずは、このスキルポイントってのを調べてみるか……!」


目の前には、まだ見ぬ進化への道が広がっている。

俺は、この迷宮を、そしてこの世界を、文字通り「這い上がって」いくことを誓ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る