石像は美味いか?


「レベル、上がったな……」


脳内に響いたファンファーレのような通知の余韻に浸りながら、俺は自分の体をまじまじと見つめた。

レベルが2になった瞬間、全身にカッと熱が走り、脱皮でもするかのような痒みが走った。心なしか、鱗の輝きが深まり、細かった体躯が一回り太くなった気がする。


「お、力がみなぎってる感じがするぞ……。よし、次はスキルポイントだ」


念じると、半透明のボードにいくつかの項目が浮かび上がった。


---


**【スキルポイント(SP)を1消費して取得可能な能力】**


* **腐食の毒:** 噛みついた相手の肉体を溶かす。

* **熱源探知:** 暗闇でも生物の温度を視認できる。

* **隠密(微):** 気配を消し、敵に見つかりにくくなる。


---


「どれも捨てがたいけど……今は生き残るのが先決だ」


迷宮は暗い。今はサーモグラフィのような視界でなんとかなっているが、より精密に敵を捉えるために俺は迷わず**【熱源探知】**を選択した。

脳の裏側に新しいスイッチが設置されたような感覚。意識を切り替えると、岩壁の向こう側に蠢く小さな命の灯火が、ぼんやりと透けて見えるようになった。


「よし、索敵は完璧。……で、問題はこれだ」


俺の視線の先には、先ほど石化させた蟻たちが転がっている。

……ぶっちゃけ、腹が減った。

人間だった頃は、ランチはコンビニのサンドイッチか牛丼だった。だが今の俺は蛇。しかも魔獣。この「石像」は、果たして食い物になるんだろうか。


「いただきます、なんて言うキャラでもないけど……背に腹は代えられない」


意を決して、石化した蟻の脚に噛みついてみた。

バキッ、という硬い音が響く。

ところが、不思議なことに。口の中に広がったのは砂の味ではなく、凝縮された「魔力の塊」のような濃厚な風味だった。石化したことで、蟻の生命エネルギーが結晶化したのだろうか。


「……うめぇ。何これ、高級なパテみたいだ」


夢中で石像を貪る。顎が外れるほど大きく開き、自分と同じサイズの獲物を飲み込んでいく感覚は、生物としての本能を激しく刺激した。

最後の一欠片を飲み干した時、腹の底からズシリとした満足感が突き上げてくる。


**【条件達成:捕食により微量の経験値を獲得しました】**


「食ってもレベル上がるのか! 最高じゃねぇか!」


これなら、戦えば戦うほど、食えば食うほど強くなれる。

前世の、いくら働いても給料が上がらず、心だけが削られていった日々が嘘のようだ。


「よっしゃ、やる気が出てきた。次の獲物は……」


新スキルの【熱源探知】をオンにする。

すると、迷宮のさらに奥、第3層の深部へと続く通路の先に、ひときわ大きな「熱」の反応が見えた。蟻とは比べ物にならない、凶悪で、それでいて美味そうな熱源だ。


「……待ってろよ、経験値。俺は必ず、龍にでも神にでもなって、この暗い穴ぐらから脱出してやるからな」


鱗をざらつかせ、岩肌を滑るように進み出す。

バジリスクの幼体は、暗闇の中で静かに、しかし確実に牙を研ぎ始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生したらバジリスクだった件~まずは蟻から始める魔王道~ @ikkyu33

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る