転生したらバジリスクだった件~まずは蟻から始める魔王道~

@ikkyu33

プロローグ:まずは蟻から始める魔王道


意識が浮上した瞬間、喉の奥をせり上がってきたのは、言葉ではなく「シャーッ」という乾いた摩擦音だった。


「おぉぉぉぉぉ……動ける、けど! なんか這ってるッ!? 地面、近すぎねぇか!?」


慌てて手足を動かそうとした。だが、脳が命じた先に「あるはずの感覚」がない。

肩から先も、股関節から先も、存在しないのだ。代わりに伝わってきたのは、腹部全体でざらついた土の感触をダイレクトに捉える、不気味なまでの密着感。


のたくると、背骨に沿って全身の筋肉が波打ち、驚くほど滑らかに体が前進する。

チロチロと口から出入りする細長い「何か」は、空気中の匂いを粒子として拾い上げ、脳内に直接情報を叩き込んでくる。

視界は魚眼レンズのように歪んで広く、それでいて熱源に反応するサーモグラフィのような、おぞましい色彩に染まっていた。


いや、待て待て……これ、どう見ても……蛇じゃねぇか!


**【固有スキル:石化の眼 Lv1 を習得しました】**


無機質なシステムメッセージが、脳内に直接響き渡る。


「──石化ぁ!? いや、それってもう……!」


そう、俺は蛇。

しかもただの蛇じゃない。視線一つで生命を沈黙させる、伝説の魔獣「バジリスク」に転生してしまったらしい。


前世の俺は、満員電車に揺られ、上司の小言をBGMにキーボードを叩くだけのしがない社畜だった。

唯一の楽しみだった飲み会で「俺、異世界転生したら最強になって魔王とか倒しちゃうからw」なんて管を巻いていたが……。


神様、いくらなんでも「人権」すら剥奪されるとは思わなかったですよ。

どこでボタンを掛け違えたら、足のない爬虫類に行き着くんだ。


「こ、これが……夢にまで見た、異世界転生……なのか?」


せめて現状を把握しようと念じると、目の前に半透明のウィンドウが浮かび上がった。


---


## **【現在の種族:若きバジリスク】**

**【レベル:1】**

**【存在階位:下級魔獣】**

**【次の進化までの経験値:98】**


「……進化、だと?」


希望の光が差した。

今はただの地べたを這うトカゲモドキかもしれないが、レベルを上げれば「上位バジリスク」や、果ては龍種に近い存在にまで登り詰められるのではないか。

そうなれば、もしかして……「人化」のスキルを得て、人間形態に戻れる可能性だってゼロじゃない。


美少女冒険者に「あら、可愛い蛇ね」なんて拾われ、ピンチの時にイケメン(人間形態)に変身して助ける……そんなご都合主義な展開だって、今の俺には許されているはずだ。


**【警告:索敵反応あり】**

**【現在地:迷宮第3層・岩窟エリア】**

**【ターゲット:迷宮大蟻(ダンジョン・アント)×3】**


「……は?」


カチカチと不快な顎の節が鳴る音が、暗闇の奥から近づいてくる。

現れたのは、俺の今の体長と同じくらいデカい、漆黒の巨大蟻。その鋭い鎌のような顎は、明らかに俺を「エサ」として認識していた。


「夢見させてからの現実はえーよ! まずは蟻からスタートかよぉぉぉおお!?」


俺の異世界サバイバルは、華やかな冒険者ギルドではなく、湿った土の匂いが漂う迷宮のどん底から幕を開けた。

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