第21話 真犯人

「証拠ならあるんですよ」


 と、ゼートは自信満々な笑みを見せる。


「実はマルフィナに依頼が来た日の夜。事前調査で俺のスライムを現地に忍ばせておいたんです」


 ええええ!?

 

「どうしてそんなことしたのよ?」

「……水泥棒がさ。万が一にも凶悪だったら危ないと思ってな。武器とか持ってるかもしれないし」

「それって私のこと全然信用してないじゃない」

「ね、念のためだよ。それで、プヨプヨには誰かが来たらこっそり撮影するように魔法鏡を持たせていたんだ」


 みんなは驚きを隠せない。

 そんな中、ゼートは状況を説明する。


「プヨプヨが俺の元に戻って来たのがマルフィナが見張りについた時間です。俺は、魔法鏡に映った人物に違和感を覚えてマルフィナにこのことを知らせようとしたんです。そしたら水門が壊れて村が水浸し。とても彼女に事情を伝えることができなかったというわけです」

 

 だから、ゼートがあの場所にいたのか……。


 ゼートは魔法鏡を取り出した。

 先生はガタッと立ち上がる。


「もしかして、映っているのかい!? その魔法鏡に、水門を破壊した不審者が?」


 ゼートは静かにうなずいた。



  *  *  *



 放課後。

 私たち三人は担任の先生を連れてベスニア先輩の前に立った。


「あらあら。みなさんそろってどうされましたの? もしかして謝罪かしら? うふふふ」


 と、彼女は勝ち誇ったように笑う。


「スペンサー男爵の領土はお父様の領土。実質、支配者はわたくしのお父様。その娘のわたくしに謝罪をするのは当然のことですわよね」

「謝罪って私がするんですか?」

「当然ですわ! マルフィナ・ラーク・ドラゴノール。あなたが水門を壊した張本人なのですからね!」

「前にも言いましたが、私はやっていません」

「あははは。無理無理。状況証拠はそろっていますもの。あなたが見張りにつく一週間前には水門の点検は済んでいましたわ。点検で異常がなかった水門が、急に壊れるわけないじゃありませんか。あなたの幻獣、神獣フェンリルのパワーと巨体ならば水門を破壊することは簡単ですわ」

「だからって、私がやる理由はないですよ」

「大方、村を浸水させて村人を助けたかったのでしょう? 自作自演の英雄譚。プププ。作戦大失敗ですわね」


 彼女の言葉にみんなは呆れる。

 そんな顔を見てベスニア先輩はニヤリと笑った。


「同情するのはわかりますわ。でも、状況から鑑みるに、こういう結果がもっとも理屈にかなっていますわよ。その女の正体は性悪。ゼート。彼女との婚約は考えた方が身のためよ。オホホホッ!」


 はぁ……。もう言いたい放題だな。

 

 ゼートはムッとした顔を見せていた。


「状況証拠がそろってる。って言いましたか?」

「ええ。そろい過ぎてますわよ。どう考えてもマルフィナが犯人ですわね」

「彼女は否定していますよ」

「アハハハ! そんなのは嘘ですわ! そもそも、彼女の証言を証明する証拠がありませんもの」

「……あると言ったら?」

「え……?」


 ベスニア先輩の顔色が変わる。

 ゼートの口角はわずかに上がった。


「あの日の夜。水溜りを見ませんでしたか?」

「な、なんの話ですの?」

 

 ゼートの背後からスライムのプヨちゃんが顔を出す。


「俺の幻獣、スライムのプヨプヨは隠密行動が得意なんですよ。人に見つかりそうになったら大きな水溜りに化ける」

「え…………………?」

「あの日の夜。大きな水溜りを見ませんでしたか?」

「な、な、なんの話かさっぱりわかりませんわ?」

「マルフィナが見張りに入る前日の夜のことですよ」


 ベスニア先輩はダラダラと大量に汗をかきながら、小さな声で「確かに、水溜りがありましたわ」と自分を納得させていた。

 突然、彼女は大きな声を張り上げる。きっと、自分を鼓舞しているのだろう。


「なんの話かさっぱりわかりませんわ!」


 ゼートは平然とした顔で眉を上げた。


「わかるでしょう? あなたがその夜にあの場所にいたんだから」

「しょ、証拠はありますの!? これはわたくしの名誉にかかわることですわ。完全なる侮辱罪! 聖騎士団を呼びますわよ!!」

「聖騎士団なんか呼んだらあんたが困るんじゃないですかね?」

「な、なにを根拠に! 聖騎士団に罰せられるのはここにいる性悪女のマルフィナですわ! 彼女こそ悪の権化! 村を浸水させて村人の命を危険に晒したんですからね!」


 ああ、もう、本当に言いたい放題だよ。

 

 ゼートは魔法鏡取り出して、そこに写る鏡像を見せた。


「これが証拠です」


 そこにはランタンの光に照らされたベスニア先輩の姿が写る。


「げ………………!」


 ベスニア先輩は固まる。

 そんな彼女を横に、ゼートは鏡面を指でスライドさせて次の鏡像を見せた。


「これは、あなたがダークスネークを召喚したところ。続いて、こちらが、その蛇を使って水門に体当たりをしてひびを入れたところの鏡像ですね」

「あああああ……」


 うん。これはもう言い逃れができない証拠だな。

 私もさっき見たけど、まだ驚いているもん。本人なら尚更だよね。

 

 先生はメガネを直しながら険しい表情を見せた。


「ベスニア・アクジョラン。君を水門破壊の容疑者。並びに村の浸水、村人の生命を脅かした罪で身柄を拘束する」


 先生の言葉に呼応して、物陰に隠れていた聖騎士団が一斉に現れた。

 それは強固な鎧を身にまとった屈強な男たちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る