第22話 ベスニアのざまぁ

 ベスニア先輩は聖騎士団に囲まれた。

 彼女は苦虫を噛んだように顔を歪めながら漆黒の大蛇を召喚する。

 そして、蛇の頭部に乗った状態でこう叫んだ。


「ご、誤解ですわ! これはなにかの間違いよ!」


 今更、見苦しいいいわけだなぁ。


「捕まるわけにはいきませんことよ!!」


 ダークスネークは聖騎士団を蹴散らしてその場を去る。


 おっと、逃すわけにはいかないわよ。


「深淵よりいでよ。絆の獣!」


 私は白ちゃんを召喚した。


「白ちゃん! 追うよ!」

「うむ!」


 白ちゃんの稲妻のごとく空を駆ける。

 その速度は瞬く間にダークスネークを追い抜いた。

 私たちはベスニア先輩の前に立つ。


「どこ行くんです?」

「げっ!」

「逃げられませんよ?」

「うるさい! この性悪女!! やっておしまいダークスネーク!!」


 漆黒の大蛇は私に向かって鋭い牙を向けてきた。


「シャァアアアアアアアアアアアッ!!」


 自分の罪を認めずに私に攻撃してくるなんて、あんたの方が性悪よ!

 こんな人にはきついお仕置きだわ!


「白ちゃん!」

「うむ」


 白ちゃんの尻尾攻撃。

 お尻を勢いよく振って、ダークスネークの顔を尻尾で叩いた。



ベシィイイイイイイイイイイイインッ!!


 

 吹っ飛ばされた彼女は聖騎士団の中へ突っ込む。即座に騎士たちによって拘束された。

 ダークスネークは魔力が途絶えて消滅。

 ベスニア先輩は言い訳のように叫んでいた。


「これは何かの間違いですわ! 誤解ですのよーーッ!」




  *  *  *




ーーオーゾック国王城ーー


 ここはアクジョラン伯爵に爵位を与えた国王の城。

 その謁見の間にて。

 国王の座る眼前には、アクジョラン伯爵と、その娘ベスニアがいた。


 オーゾック国王は魔法鏡に映った鏡像にため息を漏らす。

 そこには、ダークスネークを使って水門に攻撃するベスニアがしっかりと写っていた。

 国王は目を細める。


「ドラゴノールの娘、マルフィナの失墜を狙っての行動か」

「こ、これは国王様のためでもあります! マルフィナ姫の評判が落ちれば、スライネルザのゼート王子との婚約は破棄。我が娘ベスニアがゼート王子と結ばれれば、オーゾック国王領にとって有益でありますからして……」


 国王はもう一度、大きなため息をつく。


「では、伯爵の策略に免じて命だけは許してやる」


 この言葉に、伯爵はほっと胸をなで下ろす。


「破壊された水門。浸水した村の修復は全てアクジョラン伯爵の財産をもってやってもらう」

「と、当然ですね。ははは……」

「くわえて、ドラゴノールに謝罪金が必要だ」

「そ、そうですよね。では、金貨千枚ばかりをご用意させていただきます」


 国王はギロリと伯爵を睨んだ。


「一国の姫君の命を危険に晒してしまったのだぞ? これは国同士の争いに発展するかもしれん重大な事案なのだ」

「で、では……。謝罪金はいかほどに?」

「金貨百万枚用意せよ」

「ひゃ、百万枚!?」


 これには親子ともども目を見開いて汗を飛散させた。


「百万枚は途方もない金額でございます! それでは私の家が破産してしまいます!!

「このくらいは当然だ! 足りない分は借金してでも払ってもらう!」

「ええええええ!?」

「我が国を危険に晒した行為は許すことができん。貴様の爵位は没収する!」

「えええええええええええええええ!?」

「命が助かっただけありがたいと思え!!」


 ベスニアはあまりの急展開に思考が追いつかなかった。


「お、お父様!? わたくし、学園は卒業したいのですが?」

「バカ! そんなことができるもんか! わしらは一文なしになってしまったのだ!」

「そんなぁあああ! お父様のいうことを聞けば問題ないっていうからやりましたのにぃい!」

「証拠が残っているんだからしょうがないだろう!」

「そんなぁああああああああああああ!!」


 二人は抱き合って泣いた。


「お父様ぁああああ〜〜」

「娘よぉおおお〜〜」

「「うえぇええええええええん!!」」


 その泣き声は城内に響き渡る。




  *  *  *



 学園内ではベスニア先輩の退学が噂になっていた。

 彼女の家は爵位剥奪、多大なる借金を背負ったという。

 あれだけのことをやってしまったのだから当然といえば当然だろう。


 結局、私の個別授業は見当違いの結果になってしまった。

 アクジョラン伯爵の悪行の暴露、そして、村人の救出。

 水泥棒の逮捕とは遠くおよばない結末だ。


「ほら見て。マルフィナ様よ」

「勇敢ねぇ」

「偉大なる幻獣使いだよな」

「憧れるわねぇ」


 などと、生徒たちには羨望の眼差しを向けられてしまう。

 

 照れるな。


 いやいや、そんな場合じゃないか。


 ゼートに聞いた話。

 ベスニア先輩に渡した黒い薔薇は、彼女が欲しいと言うので、学園の庭に咲いているのを渡しただけということだった。


 ユリアス先輩の件も誤解だったし……。

 結局、ベスニア先輩が色々と策を練っていただけということか。

 もう彼女のことは忘れよう、学園にいないんだからな。


 さて、今度は私たちの未来についてだ。


 私は選ばなければならない。


 ユリアス先輩とゼート。

 

 どちらかの人を……。


 フラフラした気持ちで付き合うのは相手にとって失礼だと思う。


 だから、決断する。


 恋人として……。


 私が本気で交際する人を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る