第19話 マルフィナの大活躍
村にいる十五人を助けなきゃ!
私はすぐさま白ちゃんを操って現場に急行する。
麓の村は水浸し。
幸い月明かりがあるので真っ暗というわけでもない。
激流の中、屋根に登る村人を発見する。
「白ちゃん! あそこ!」
「うむ!」
白ちゃんは空を駆けて村人の近くに行く。
私は手を伸ばして村人を白ちゃんの背中に乗せた。
十人以上は乗せただろうか?
「マルフィナ様! うちの娘がいないんです!」
「ええええ!?」
周囲をランタンで照らしながら捜す。
遠くの家の屋根に子供が一人取り残されていた。
子供は大声で泣いているが、その鳴き声は激流によってかき消されている。
そんな子供の元へ巨大な木が倒れようとしていた。
「白ちゃん! あっち!! 急いで!!」
「無茶をいうな。これだけ乗せると速くは動けん!」
「ええええええええええ!?」
早くあの子の元へいかないと、大木の下敷きになっちゃう!
速く移動する方法……速く……そうだ!
「白ちゃん! 私を尻尾でぶってあそこに飛ばして!」
「なに!?」
「初めて君を召喚した時に私を尻尾でぶったでしょ? あれを今やるのよ!」
「無茶だ!」
「考えている時間なんてない!」
私は尻尾に向かって飛んだ。
「白ちゃん!」
「どうなっても知らんぞ!」
腕をクロスして衝撃に備える。
バシィイイイインッ!!
白ちゃんの尻尾が私に命中する。
痛ぁあああいッ!
でも、私の体は凄まじい勢いで子供の方へと飛んだ。
「コントロール抜群! 流石は白ちゃんだ!」
私は猛スピードで子供の元へと飛んだ。
巨木が子供に接触しようとした時。
ガシッ!
私は子供をキャッチして巨木の接触を回避した。
「やった!」
上手くいったわ!
でも、危険はまだ終わっていないのよね。
問題はどこに着地するかなのよ。
運がいいことに私の体はフサフサの木々の隙間に突っ込んだ。
「ふぅ……。よ、よかったぁ……。なんとか助かったわ」
「お姉ちゃん。ありがとう……」
「えへへ。助かって良かったぁ。ここなら水は来ないし白ちゃんの助けを待てばいいわ」
そんな時だ。
木の幹に激流が衝突して木が大きく揺れる。
「え!? え!?」
ベキ……!
はい?
私が乗っていた枝が折れる。
ベキベキベキベキッ!!
私だけがそのまま落下。
「ええええええええええええええええええええ!?」
ドボーーーーンッ!!
私は激流の中に落っこちてしまった。
「お姉ちゃーーん!」
子供の声は激流の音でかき消される。
なにかに捕まらなくちゃ!
急いで木に捕まるも川の水流が強い。
ダ、ダメだ!
とても物に捕まることができない!
私は大量の水を飲んでしまい、余計に頭が混乱する。
ああ、ダメだ。これはもう完全にダメなやつ。
白ちゃんだってこんな激流の中には入れない。
なにより彼の背中にはたくさんの村人が乗っているんだ。
ここに来て私を助けるなんてできない……。
ああ、終わった。
私……死ぬんだ。
月明かりが綺麗なのが唯一の救いかな。
パパママ、ユリアス先輩、ゼート……。
みんなさようなら……。
白ちゃん……。君のおかげで村人を助けることができたよ。
私の魔力が途絶えると白ちゃんは深淵に還って消えてしまう。
白ちゃん……。消えるのはみんなを避難させてからだよ。
これは最期のお願いね。
「マルフィナ!」
あれ? この声……。
どこかで聞いたことがあるような?
それは月明かりに照らされたユリアス先輩だった。
彼の手が私の手首をがっちりと掴む。
先輩は、グリーンペガサスに乗っていて、そのまま私を引き上げてくれた。
ああ、先輩……。
良かった……。また会えた。
「おいマルフィナ! しっかりしろ!」
月明かりに照らされた先輩……。綺麗だなぁ……。
* * *
「あれ……? ここどこだ?」
私が気がつくと平地で寝ていた。
白ちゃんが消えている。
私の魔力が途絶えたから深淵に還ったんだ。
周囲では村のみんなが騒いでいる。
「あ! 姫さんが気がつかれたよ!」
私の周囲に村人が集まってくる。
その中でも三人の村人はお礼に熱が困っていた。
両親と子供。三人は何度も頭を下げた。
「息子を助けてれてありがとうございます!」
「あなた様のおかげでうちの子が助かりました。本当になんとお礼を言っていいか……」
「お姉ちゃん。ありがとね」
良かった……。
みんな助かってる。
あれは夢じゃなかったんだ……。
じゃあ、先輩はどこだろう?
「あの……。ユリアス先輩はいませんか?」
「ああ、ユリアス王子なら私らをこの高台に避難させてね。子供を探しに行かれたんだよ」
「子供……? ぜ、全員助かったんじゃないんですか?」
「実はまだ二人ばかり行方不明なんだ」
そこにグリーンペガサスに乗ったユリアス先輩が帰ってくる。
「マルフィナ。無事か」
「先輩!」
本来ならば助けてもらったお礼をいうのが先だろう。
でも、私は妙な胸騒ぎがして聞かずにはいられなかった。
「こ、子供は? 見つかったんですか?」
すると、先輩は無言で首を左右に振った。
え……?
「ど、どういう意味ですか……? み、見つかったんですよね?」
彼は、視線を下ろして水流に飲まれた村を見つめた。
「方々を捜したんだが……。もう全て流された後だった」
「そ、そんな……。わ、私も捜しますから!」
「どこまで流されているかわからない。月明かりがあるとはいえ、夜中に僕と君だけで捜すのは無理だ。領主の力と
村人は水に浸かった自分たちの村を見て涙を流す。
もう確信しているのだ。自分の子が帰ってこないことを。
希望は捨てたくない……。でも、この浸水じゃ……。
パパ……。こんな時どうしたらいいの?
パパは幻獣使いの国王として、どうやって困っている人々を助けているの?
「君の白なら
私は号泣する村人に寄り添っていた。
体が勝手に動いてしまったのだ。
私も一緒にボロボロと泣いている。
「私……。頑張って捜しますから……。最後まで諦めないでくださいね」
こんな言葉が正解かどうかはわからない。
でも、どうしても助けてあげたくて仕方ないんだ……。
「深淵よりいでよ。絆の獣」
私は白ちゃんを召喚した。
涙を拭く。
さぁ、動こう。
必ず、子供を助けるんだ。
と、私が決心した時だった。
「おーーーーーーーーーい」
遠くの方で男の声がする。
それはドンドンこちらに近づいてきた。
どうやら、木の上から聞こえてくるみたい。
私たちが声の方を見上げると、猿のように木々を渡って近づいてくるものがいた。
月明かりが、動く物体を黒いシルエットに浮かび上がらせる。
やがて、それは木から飛び降りて目の前に着地した。
その着地音の特殊なこと……。
ポヨヨン……。
え……? この音って……。
「よ!」
私の眼前には、見知った少年が笑顔を見せる。
その挨拶は片手の平を上げるだけ。本当によく知っているやり方だ。
あ……ああ………。
彼の後ろには巨大なスライムがウニョウニョと動く。
「俺は空が飛べないからさ。木々を伝って水を回避したんだ」
月明かりに照らされた彼の青い髪は本当に綺麗だ。
ゼ、ゼ……。
「ゼーーーーーーーート!」
まさか、彼が助けに来てくれたなんて意外だった。
ってことは後ろのスライムはプヨちゃんだ!
プヨちゃんは二つの大きな物体を抱え込んでいた。
それは二人の子供だった。
「マルが心配だから来たんだけどさ。急に川が増水するんだもんな。で、途中で溺れている子供を拾ったんだよ」
あああああああああああああ!
この感動は言葉にならない!
二人の子供は無事だった。
子供らは村人の顔を見て笑顔を見せる。
助かってた!
ゼートが助けてくれたんだーー!!
「ゼーーーート!!」
私は嬉しさのあまり彼に抱きついた。
ああ、みんな助かった。
助かったんだ!!
嬉しい。
最高!
もう、本当に嬉しい!!
どれだけ心配したか!!
ああ、神様ありがとう。
そして、ありがとうゼート!!
「ゼート……ありが……と。Z Z Z……」
「お、おいマル! 大丈夫か? お、おい! マルフィナ──」
むにゃむにゃ……。ウフフ。みんな助かった。
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