第14話 真相
今……信じられない光景を目の当たりにしている。
ユルアス先輩が綺麗な女子学生と腕を組んで歩いているのだ。
しかも、かなり体を密着させて。
どう見ても恋人同士の距離感……。
ああ、夢なら覚めてほしい。
先輩……私のことが好きって言ってくれたのに……。
あれは嘘だったの?
そ、それとも……。
ああ、考えたくはないのだけれど、先輩って複数の女子と付き合っちゃう人?
先輩ってそういう人だったの?
ダメだ……。泣きそう。
いや、もう泣いてるや。
「深淵よりいでよ。絆の獣」
私は白ちゃんを召喚してその場を去った。
「ううううううううううう!!」
「どうしたのだマルフィナ。なにが悲しいのだ?」
「今はそっとしておいて。底なし沼で溺れているように、私の心は深く沈んでいるのよ。ううううう」
城に帰るとゼートが私を待っていた。
「よっ」
彼は機嫌よくいつもの挨拶をする。
「白とプヨプヨを顔合わせさせたくてさ。ちょっと寄ったんだって……。どうしたんだよマルフィナ?」
「な、なんでもない」
私は泣き顔を隠して走る。
「ごめん。今日は調子悪いから」
「マルーーッ!」
私は自分の部屋にこもってワンワン泣いた。
もう頭が混乱して、泣くことしかできない。
* * *
そんなことがあってから、マルフィナは誰とも会話をしなくなった。
ゼートは彼女の変わりようにピンと来る。
(マルが泣くなんて……。原因はあいつしかいないはずだ)
放課後。
彼はマルフィナに内緒でユリアスに会いに高等部の校舎に行った。
そこでは美しい女子学生と腕を組むユリアスの姿を目撃する。
ゼートは物陰に隠れて二人の状況を観察した。
「あの野郎……。マルに気があるような態度を見せておきながら……。許せねぇ」
ゼートが拳に力を込めたその時だ。
「ベスニア。悪いが腕を離してくれないか」
「あら、どうしてですの?」
「君とは単なる級友だ。これでは恋人同士に見えてしまう」
「まぁ、いいじゃありませんか。おほほほ。みんなに見せつけてやりましょうよ」
「……すまないが、少し用事を思い出した。深淵よりいでよ。絆の獣」
ユリアスはグリーンペガサスを召喚させて飛んで行った。
「あーーん。ユリアスったらぁあ!」
校舎の外れ。人気のない森の入り口。
ユリアスはそこに着陸した。
「ふぅ……」
と、一息ついたその時だ。
「ユリアスーーッ!!」
大きなスライムが大槌の形を模して襲ってきた。
ユリアスはその動きを察知して素早く後ろに跳ねる。
ドゴォオオン!
スライムの大槌が地面を破壊する。
辺り一面に砂埃が舞う。
スライムの後ろにはゼートが立っていた。
「どういうつもりだい? 僕に喧嘩を売るなんて」
「うるせぇ。マルが泣いてんだよ」
「なんの話だ?」
「大方、さっきの女とイチャイチャしてるところを見たんだろうさ」
ユリアスは少し呆れたように鼻息を出す。
「ベスニアのことか……。彼女はただの級友さ。別になにもないんだ」
「だろうな」
「え……?」
「ここに来たのだって、彼女から逃げるためだ」
「なんだ……。誤解は解けてるじゃないか」
「そういう話じゃないんだよ……」
「どういう意味なんだい?」
「俺はなぁ……」
ゼートは大きな声を張り上げた。
「マルフィナを泣かすやつは誰だろうと許さない!!」
ユリアスはその宣言にあっけに取られていた。
そして、ニコリと笑う。
「情熱的だね……。嫌いじゃないよ」
「うるせぇ。一発殴らないと気がすまねぇ」
「マルフィナに誤解を生んでいるなら謝るさ。なにも僕たちが戦うことはない」
「本当に謝るんだろうな?」
「もちろんだ。彼女を悲しませるのは僕の本意じゃないさ。誤解があるなら謝罪はするよ」
「…………だったら許してやるよ」
「ふふ……」
「なにがおかしいんだよ?」
「だって……。君はマルフィナが好きなんだろ?」
「……だから、なんだよ?」
「だったら、これは好機じゃないか。僕がベスニアと付き合っていることにすれば、僕はマルフィナに嫌われるだろう?」
この問いに、ゼートはしばらく黙った。
そして、キッと眉を寄せてこう言った。
「そんなのはフェアじゃない。俺は正々堂々と戦っておまえに勝ちたいんだ」
ユリアスは空いた口が塞がらなかった。
そして、自然と笑いが込み上げてくる。
それは、感動や尊敬にも似た驚きの笑みだった。
「ははは……。君はまっすぐな男だな」
ゼートはつまらなさそうにぷいっと顔を逸らした。
「マルフィナが君に告白した理由がわかったよ」
「もう済んだ話だよ。じゃあ、俺は行くから」
「なぁ、ゼート」
「なんだよ?」
ユリアスは優しくて、それでいて力強い笑みを見せた。
「僕は君が好きだ」
ゼートは真っ赤になる。
変な汗が全身から吹き出して止まらない。
「バババ、バッカじゃねーーの! 俺はそっちの趣味はないぞ!」
「僕だって異性が好きだよ」
「だったら、おかしなことは言うなよ!」
「そういう意味じゃないさ。僕は君と友達になりたいんだ」
「ふざけんな! 俺はおまえが嫌いだ!」
ユリアスは少しだけ悲しい表情を見せた。
「この大陸には三十を超える国があり、五万人を超える貴族がいる。
「なにが言いたいんだ?」
「君と僕が仲良くなれば、それは平和にもつながるということさ」
「学園内で国政の話をするのは校則違反だぞ」
「君は先生にチクったりしないだろ?」
「…………」
「人と人との絆は信頼関係で生まれるということさ。自分が信じれる人間と仲良くなりたいと思うのは、一国の王子としては当然じゃないか」
「そんな話はやめてくれよ。俺にすれば、好きな人をどちらがより大切にできるかの方が重要なんだ。国政なんて二の次だね」
ユリアスはまた笑った。
それは感心と驚きの笑い。
「ふふふ。君は本当に素直な男だな」
「バカにするなよな」
「尊敬している……。いや、ちょっと羨ましい」
「俺はあんたのそういうところが嫌いだ。いつも上から目線で余裕たっぷり。こっちは小馬鹿にされている気分だよ」
「そうか……。だったら、僕も君を見習おう」
「はぁ?」
ユリアスの顔から笑顔が消えた。
彼は真剣な眼差しでゼートを見つめる。
「僕を認めさせてやる」
ゼートは混乱した。
ユリアスの純粋で熱い気持ちが伝わったのである。
「な、な、何言ってんだよ?」
「君が僕を好きになれば問題は解決する」
「ふ、ふざけるな!」
「僕は真剣だ。君を見習ってね」
「調子が狂うやつだな」
「君は自分を慕ってくる人間を無碍に扱うような、そんな男ではないはずだ」
「うるさい、黙れ! と、とにかく、マルフィナが泣いてんだ。誤解を解いてやってくれ」
「ああ。知らせてくれてありがとう。今すぐ彼女の王城へ向かうよ」
ユリアスはグリーンペガサスを召喚してマルフィナの元へと飛ぶ。
その姿を見送ったゼートは小さくうなずく。
(よし、次はあの女だ)
* * *
ゼートはベスニアと話すことにした。
彼女を見つけて人気の少ない校舎の庭に連れ出す。
「ユリアスのことで伝えたいことがあるって言うからついてきましたけど……。あなた中等部のゼート・ウォーター・スライネルザですわよね?」
「なんで、俺のことを知ってるんですか?」
「中等部、幻獣闘技大会の優勝者。スライム使いのゼートといえば有名ですわ。高等部にだってその名前は届いてきますわよ。それに、あなたは女子に人気がありますしね。ウフフ」
ベスニアは妖艶な笑みを浮かべた。
ゼートはキッと眉を寄せる。
(念の為、彼女からも事情を聞こう)
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