第8話 幻獣召喚
私とユリアス先輩の会話は盛り上がっていた。
やがて、その話題は出会った時のことに移る。
「幻獣召喚の練習をしていたのかい?」
「あ……はい……」
言いにくいな。
進級試験の本試験に落ちて再試験だもん。
流石に恥ずかしいよ。
先輩は私の顔色がずっしりと沈んだことを察してくれた。
「僕は強大な魔力を感知してね」
はて?
そんな力は感じなかったけどな?
「魔力の方へ向かったら君が吹っ飛ばされていたというわけさ」
どんな理由にせよ先輩は私を助けてくれた恩人だ。
「幻獣召喚……。苦労しているようだね」
「じ、実は……。そうなんです」
うう、恥ずかしい。
「おかしいですよね。一国の姫君が幻獣もろくに召喚できないなんて」
「コツを得てないだけさ。再試験は?」
「あ、明日です……。でも、まだ一回も成功したことがないんです」
「ここには魔力補助用の魔法陣があるからね。少し練習を見てあげようか」
「本当ですか!?」
「うん。クッキーのお礼」
うう……。クッキーは私のお礼なんだけどな……。
ああ、やっぱり先輩はいい人だな。
小屋の横の地面には魔力補助用の魔法陣が描かれていた。
「私が召喚しても、幻獣の一部分しか出ない感じなんです。この前は尻尾で叩かれました」
「共感にズレがあるのかもしれない」
「共感ですか?」
「幻獣だって生きているからね。主人とは想いを共有したいのさ」
そういえば、ゼートも同じようなことを言っていたな。
「どんなことを思って召喚を実施しているんだい?」
「今までは「出て来てお願い」って気持ちだったんですけどね。ゼートのアドバイスで「一緒に戦おう」とか「敵を倒せ」とか、闘争心を掻き立てる方がいいって言われて必死に想像をしたんです。でも、それでも上手くできなくて……」
「ふむ……。闘争心か……。君のイメージじゃないな」
「あんまり戦うのは好きじゃないかもですね。ゲームは好きだけど」
「じゃあ、『一緒に過ごしたい』というのはどうだろうか?」
「なんですか、それ?」
「君のイメージさ。美しい野花を見て、優雅にお茶を飲む。君の幻獣だって、そうしたいと思っているかもしれないよ」
「…………そんなこと、考えたことなかったです」
私は両手を組んで精神を集中した。
彼に呼びかけるように念じる。
ねぇ、白ちゃん。
ここには素敵な野花が咲いているのよ。
周辺の木々はエゴノキ。白くてとっても可愛い花が咲いているわ。
そこに葡萄のようにぶら下がっているのはフジの花よ。紫色が艶やかね。
その下にはピンク色のイワカガミ。根本には小さくて紫色のカキドオシ。
風で揺れている黄色い花はキンランよ。
ねぇ、白ちゃん。
一緒に野花を見てみない?
そして、私とおしゃべりするの。
君はどんな物が好きなの?
嫌いな物はなに?
どんな遊びをするのかしら?
ねぇ、白ちゃん。
私と一緒に過ごしてみない?
「深淵よりいでよ。絆の──」
召喚の言葉を言いかけてハッとする。
そこには強風にあおられるユリアス先輩の姿があった。
「マルフィナァアア! ストップだ! 召喚を止めるんだ!!」
え!? な、なんでぇえええええ!?
魔法陣の中央には真っ白い稲光が渦を巻いて発生している。
まるで、周囲の空気を吸い込むように強風を発生させていた。
「な、なによこれぇええええええ!?」
「初めて幻獣を召喚する場合。幻獣の魔力が強大すぎると、周囲を吹き飛ばすことがあるんだ!」
先輩の小屋は今にも吹き飛びそうなほど傾いていた。
こ、このままじゃ、この場所が吹っ飛んじゃう!!
「えと……えと……!」
「落ち着いて! 心を沈めるんだ!」
お、落ち着けといわれてもぉおお!
あわわわわわ!
「心を沈めて『深淵に帰還せよ。絆の獣』って言うんだ!」
瞬間。
強風に吹き飛ばされた椅子が私に向かって飛んできた。
「きゃああッ!!」
「マルフィナ!」
ガツンッ!
と、痛々しい接触音。椅子が体に当たったんだ。
でも、私は全然痛くない。
「え……?」
この香りはサンダルウッド。
私はユリアス先輩に抱きしめられていた。
さっきの椅子は先輩の背中に当たったらしい。
「大丈夫か、マルフィナ?」
「わ、私は大丈夫です。先輩が……」
「僕は大丈夫。それより気持ちを落ち着かせるんだ」
「は、はい……」
以前としてして強風は吹き続けている。
ふぅ……。
落ち着け私。落ち着けぇ……。
ユリアス先輩の硬い胸板……。どきどき。
って違うだろ!
精神集中だぁ……。落ち着けぇ……。
「深淵に帰還せよ。絆の獣」
この言葉とともに強風は止んだ。
はぁ……。一時はどうなったかと。
「やはり、僕が感じていた魔力は君が原因だったようだな」
「一体、私の幻獣って……」
おっと、私のことより先輩だ!
「背中! 大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。気にしないでくれ」
「ダメですよ。結構、すごい勢いで当たっていましたよ。傷口をちゃんと見ないと!」
「そういわれても背中だからな。痛っ……」
「ほらぁ! やっぱり痛いんじゃないですか!」
「じゃあ、小屋の中に傷薬があるから君が塗ってくれるかい?」
「じゃあ、私が取って来ますね」
私は傷薬の置いている場所を先輩に聞いて小屋に入る。
中から傷薬を持ってくると、先輩は上半身が裸だった。
「うわっ!!」
「どうかしたかい?」
「い、いえ……」
せ、先輩ってば白く美しい肌なのに、体は細マッチョなのね……。
「傷薬は見つかった?」
「は、はい……」
「?」
ああ、直視できない。
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