第5話 幻獣使いは恋をする

 金髪のイケメンは、私を優しく下ろしてくれた。


 自己紹介しなくちゃ。


「危ないところを助けていただきありがとうございます。私は中等部一年のマルフィナ・ラーク・ドラゴノールです」


 彼は私の挨拶を優しく包み込むように微笑む。

 その瞬間から、場の雰囲気が和らいだ。


「ドラゴノールの姫君か……。僕は高等部二年。ユリアス・ヴァン・ペガスス」


 高等部の二年なら私とは三年も上の先輩だ。

 それにペガススといえば……。


「ペガスス王国の?」

「うん。第二王子さ」


 ああ噂には聞いている。

 翼が生えた馬、幻獣ペガサスを召喚するペガススの王族だ。


「僕のことはユリアスと呼んでくれ」


 そんな。目上の方を呼び捨てにするなんて畏れ多い。


「では、ユリアス先輩と呼ばせてください。私はマルフィナなんですが、親しい人は『マル』って呼んだりしています」

「そう。慕われているんだね」

「呼びやすいだけですよ。えへへ」

「僕はマルフィナと呼ばせてもらうよ。ご両親がお付けになられた美しい名前だからね」

「………………」


ドキドキドキドキドキ……。


 ヤバイ……。

 やっぱりこの人カッコイイ。


「幻獣召喚の練習?」

「あ、はい……。これにはわけがありまして……」


 二年へ上がる進級試験の再試験……。

 恥ずかしいから言いたくないけど、この人ならわかってくれそう。

 でも、笑われるかな? うーーん。

 ああ、でも、助けてくれたしな。やっぱり話そう。


「あのですね……」


 そんな時、ゼートがやって来た。


「悪いマル。ちょっと授業が長引いてさ──」


 彼は血相を変えて私とユリアス先輩の間に入る。


「マル! 大丈夫か!?」

「え!? いや……」


 ユリアス先輩が助けてくれたから大丈夫なんだけど……。


 ゼートはユリアス先輩を睨みつける。


「金のエンブレム……。高等部の先輩が中等部の生徒になんの用事ですか?」


 あわわ。ゼート、なぜ先輩を睨むのだ!?

 もしかして、ユリアス先輩が私にイタズラしようとしてると思ったの?


「ゼート! 違うってば!」

「大丈夫。俺に任せろ」


 いやいや、大丈夫じゃない!


「マルを笑うやつは、先輩だろうと俺が許さない」

「なにか勘違いしているようだが?」

「笑っただろ!」

「素敵な出会いに感謝して、楽しく話していただけさ」

「なにぃいい!?」


 うわわわ。

 ゼートは、先輩が私の再試験のことで笑ったと思ってるんだ。


「ボーイフレンドにしては熱いな。ずいぶんと彼女を大切にしているようだ」

「当然だろ」

「君がいるなら、彼女は大丈夫そうだな」

「なんのことだよ?」

「僕は失礼するよ」


 ユリアス先輩が精神を集中すると何もない空間から緑の稲光が発生する。


「深淵よりいでよ。絆の獣」


 先輩は緑色のペガサスを出現させた。

 緑の毛をした翼の生えた馬。とても神秘的で美しい。

 彼はそんな馬に乗って、私に優しい笑みを見せた。


「じゃあ、マルフィナ。また縁があればどこかで会おう」

「は、はい……」


 ペガサスは翼をはためかせて空を飛ぶ。

 ユリアス先輩はそのまま去って行った。


 はぁ……。優雅。


「あのペガサス……。あいつが噂のユリアスか」

「ゼートは先輩のことを知っているの?」

「幻獣闘技大会で何度か見かけたことがある。あいつは高等部、俺は中等部だからさ。直接戦ったことはないけどね。グリーンペガサスを操る凄腕の幻獣使いさ」

「へぇ……凄腕……」


 やっぱりカッコイイな。ユリアス先輩……。

 おっと、関心してる場合じゃなかった。


「ちょっとゼート!」

「な、なんだよ!?」

「あの人はね──」


 私はことの顛末を伝えた。

 私がシロちゃんの尻尾に弾かれて木にぶつかりそうになったこと。

 それを助けたのが先輩だったってことも。


 ゼートは少しバツが悪くなっているように頭をかいた。


「なんだよ……。俺はてっきり、マルが再試験を受けることを笑われているのかと思った」 

「んもう」

 

 でも……。

 

「私のことを……。心配してくれたんだね。なんか嬉しいかも。ありがとうね。ニヘヘ」

「当然だろ」

「ふふふ。持つべきものは親友だね」

「…………………………」


 彼は少し間を置いた。

 反省したのかな?

 それなら一緒に先輩と謝りに行きたいかもしれない。

 そうなれば必然的に先輩と会える……。グフフ。


「なぁマル」

「なに?」

「………………………いや、なんでもない」

「わかった! 先輩に謝りに行きたいんでしょう!」

「いや、違う」


 なんだ違うのか……残念。

 ということは、


「悩み事? だったら聞くよ? 親友になんでも話してみなさい!」


 と、ドンと胸を叩く。


「……俺のことより再試験だろ」

「あはは……。そうでした」

「んじゃあ、幻獣召喚の練習だ」

「うん」


 私たちは幻獣召喚の練習を始める。

 彼は私にアドバイスをくれた。


「精神を集中してな。友達を呼び出すみたいな感じでやるんだよ」


 友達か……。じゃあ、ゼートみたいな感じなのかな?


 その後も、何度も挑戦してみたけれど、結局上手くいかなかった。


 一生懸命に指導してくれるゼートには悪いんだけど……。


 雑念があるから上手くいかないのかも。


 頭の中は彼のことで一杯だったな。


 グリーンペガサスに乗って、優雅に空を飛ぶユリアス先輩。


 輝く金髪。優しい笑顔。


 あんなに素敵な人……。初めて出会った。


 この気持ち……。もしかして……恋?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る