第4話 マルフィナの幻獣
幻獣召喚の再試験。
これに合格できなければ中等部二年に進級ができなくなる。
不合格は中等部一年に落第してしまう。
想像すると落ち込むよ。
連合王立セイクリッド学園は幻獣使いを育成する学校だ。
まともに幻獣を召喚できないんじゃ落第は当然だと思う。
パパは大きな翼竜を召喚することができる。
ママはミノタウロスという顔が牛の巨人を出せる。
そんな二人の血を引いた私は──。
「深淵よりいでよ。絆の獣!」
私の眼前にある魔法陣は周囲の空気を吸い込んだ。
そして、紫色の稲光とともに魔界より幻獣を呼び出す。
ボワン……!!
白い煙とともに現れたのは──。
白い毛玉。
その大きさは私くらい。
モフモフの白い毛玉。
「ああ……。またかぁ……」
ガックリと項垂れる。
幻獣は出せる。出せるんだ……。
でも、出てくるのはこの大きな毛玉だけ……。
「君はなんなの?」
私の問いかけに、その大きな毛玉はコロコロとわずかに体を揺らすだけ。
バカにされている気がする。
「お願いだから顔を見せてよ」
これは白いモフモフの竜? それともミノタウロス?
幻獣図鑑には白い毛玉の幻獣なんて載っていないんだもん。
この子の正体がわからない。
とりあえず名前は白いからシロちゃんと名付けている。
「シロちゃんあのさ。試験の内容は召喚者を乗せて一キロ先のゴールに辿り着くことなんだよね。君ってば、私を乗せて動けるのかな?」
コロコロ……。
ああ、体を振るだけか。
反応がわからない。
このままじゃ落第だ。
私の成績は平均値。
筆記試験や体を使った実技訓練、礼節、社交会のマナー。その全てが平均的な成績だ。
でも、幻獣召喚の成績だけは学級内、最低クラスなのよね。
ああ、このままじゃ落第は確定だよ。
一国の姫君が落第……。
この学園には各国の王族、貴族が集まっている。
落第すれば、みんなは私を笑うだろう。
『まぁ、ドラゴノールのマルフィナ様が落第ですって』
『おほほほ。まともに幻獣も召喚できませんの』
『進級できないのかよ。情けないな』
『プフフ。ドラゴノールも終わりだな』
『あははは! 落第かよ』
『王城ではどんな教育を受けているのかしら?』
『ふふふ。いい笑い者ね』
あううううううううううううううう。
嫌だ嫌だ嫌だ。
絶対に落第したくない!
なにより、大好きなパパとママがみんなに笑われちゃう。
パパとママが悲しむ姿は絶対に見たくないよ。
それに、落第生の姫君を好きになってくれる人なんて絶対に現れないだろう。
私にお婿さんが来ないとドラゴノール王国はパパの代でおしまいだ。
そうなれば、領民だって路頭に迷うことになる。
ああ、私の落第でみんなが不幸になってしまう。
なんとしても試験に合格しなくちゃ。
「ねぇ、シロちゃん。今から君の上に乗るけどいいかな?」
この子、オスかメスかもわかんないんだよね。
とりあえず、勝手にオスってことにしておく。
「いい? 乗るよ?」
私はモフモフの真っ白い毛をむんずと掴んで毛玉の上に乗った。
「わは! 乗れた! すごいよシロちゃん!」
これならなんとかなるかも!
「いいシロちゃん? ちょっと疲れるかもしんないけど私を乗せて走って! さぁ、レッツゴー!」
しぃーーん。
「ちょ、シロちゃん! 動くの! 動いて!」
シロちゃんは私の呼びかけに無反応。
ただ、体をわずかに揺らすだけ。
「んもう! このままじゃ落第しちゃうんだよぉおお! 百メートル、いや十メートルでいいから! とにかく動いてぇええええ!!」
それでもシロちゃんは動かない。
「んもぉお! シロ! 動きなさい!! 私はあなたの主人なのよ!!」
と、ペシペシ叩く。
すると、真っ白い毛玉の中から、ウニョーーンと細い触手らしき物が伸び出てきた。
これは初めての展開だ!
「これは……脚? もしかして走ってくれるってこと!?」
それはフリフリと左右に揺れる。
もしかして……尻尾?
「シロちゃん……?」
尻尾はブゥンブゥンと激しく揺れる。
すさまじい風圧だ。
「もしかして飛ぶとか?」
飛べるなら試験は簡単に合格だ!
「行け! シロちゃん! あの大空に向かって飛ぶのです!!」
すると、尻尾は私の体に衝突した。
ベシィイイイイイイイイッ!!
「きゃあッ!!」
とんでもない強打。
私はそのまま吹っ飛ばされる。
このままいけば木に衝突して大怪我だ。
なんてことだ。
怪我なんかしたら試験どころじゃない。
もう落第は確定する。
みんなに散々笑いものにされたあげく、パパとママは悲しんで、王国は跡取りがいなくなって滅亡だ。
ああ、最悪の結末!!
ああ、ぶつかる!!
全てが終わる!!
私が覚悟を決めた時、ハシッ! っとなにかが私の体を掴んだ。
それは私の体を包み込むように抱いている。
怖いので目を閉じていたのだけれど、まったく痛くないので木には接触していないらしい。
鼻腔に広がるのはサンダルウッドの甘い香り。
なんだろう?
硬い……なにかに抱かれている?
恐る恐る目を開けると、そこには凛々しい男の人の顔があった。
その人は、私と目が合うとニコリと穏やかに微笑む。
「大丈夫?」
私は返事をするのも忘れて、ただ呆然と見つめてしまった。
だって、その人の髪は金色の長髪で、まるで黄金のように輝いていたから……。
その瞳は、深い森の奥深くを思わせる、神秘的なエメラルドグリーン。もう吸い込まれそうになるほど美しい。
鼻筋は、まるで彫刻家が丹念に削り上げたかのように完璧な直線を描き、その先端は微かに上を向いていた。
体つきはやや筋肉質で、私の体を真綿のように軽々と持ち上げている。
その硬い腕は私の体を包み込むように優しく抱いていた。
「あ、あ、ありがとう……ございます」
私はもう、そんなお礼をいうのが精一杯で……。
胸の鼓動は激しくドキドキと……。
それはもうドキドキドキと動く。
ああ、こういう表現しか出てこないな……。
カ、カッコイイ……。
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