【三題噺 #99】「雨」「口」「理由」

夕日ゆうや

詩的にしてみたかった。

 雨粒の落ちる中、私はバス停のベンチに腰掛けていた。

 バス停の上にかかった屋根は雨音を奏でていた。

 しばらく待っているとバスは雨水をかき散らしてこちらに向かってくる。

 バイパーを動かしながらも停車したバスはドアを開けて私を迎えてくれる。

 がま口の財布を取り出すと、バスに乗り込む。

 ちゃんと帰りのお金はある。

 大丈夫だろう。

 ザーザー降り続ける雨の中、私は彼に会いにいく。

 ゆっくりと走るバスからの景色は雫の跡を残した窓でしかない。

 私は小さなため息を吐き、自分の運のなさを感じる。

 でも彼に会える。

 その気持ちが浮ついた気持ちになる。

 バスは県南から中心街へと向かっていく。

 彼の住む街へ。


 彼のことを好きになった理由はなんだったっけ。


 雨はもう晴れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【三題噺 #99】「雨」「口」「理由」 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ