二
一年生の間は本当に退屈だった。学校に行っても席は離されて隙間だらけで、給食も黙って食べなくちゃいけなくて、運動会も音楽会も有った様な無かった様なよく
診療所も待合を半分位閉鎖してる感じで、患者さんは自宅から診察予約して、順番が近くなったらメールとか電話で呼び出して、待合には
本当にこの一年位は、
一年生の終わりから二年生に上がる位にはそれも下火になって来て、もう大丈夫って国も云い始めた様で、規制なんかも次第に無くなって、少しずつ普通の生活が戻って来た。そんな
二年生に上がって
その人は何だか
「よう、澤田。久しぶり」
「シンさん! 元気にしてましたか? 警備会社の方の景気は
「まあまあかな。お前の方がお稼ぎじゃないのか?」
「僕ではなくて、嫁さんがですね」
「ははは、由紀ちゃんに食わせてもらってるか」
父は
「僕は神田さんのビジネスパートナーです。クラウンと云います」
「クラウン?」
僕と父と、声が揃って仕舞った。
「あは、勿論本名ではないですよ。ハンドルネームみたいなもんです」
「はぁー……」
「今日はこのクラウンさんの紹介と、あと息子さんの様子を見に来たんだけど」
「弘和は未だ、七歳ですよ」
「来月八歳になります!」
「うん、まあ、兎に角未だ小学二年生です」
神田さんは僕のおでこの辺りを
「未だ未だ……と云いたいところですけどね、まあ僕の能力は軽く超えていると思います」
「指導が好いんだな」
「まあそうでしょうね」
「謙遜しろよ」
父と神田さんは二人で笑い合っている。僕のことを話している様なのだけど、何のことやらさっぱりだ。
「
「いやまぁ、その
「俺のことは好いんだよ。ところで弘和君の能力、治癒だけじゃないんだな」
「え?」
そう、父には話していない能力が、僕にはある。必要ないと思って云ってなかっただけで、別に隠していたわけじゃない。
「バリア張れます」
皆の周りにバリア張ってみた。父が兎に角驚いている。
「ええー! ヒロ、お前凄いじゃないか! 何で云ってくれなかったんだよ!」
「だって診療所に関係ないし」
「関係なくてもさー!」
神田さんは鳥渡苦笑気味に、「それだけじゃないよね。いわゆる状態異常と云う様な物にも対処できるみたいだ」
それは鳥渡、何云ってるのか判らなかった。
「今ここで状態異常を作り出せないから……否クラウンさんなら作れるけど、何と云うか……」
「そうですねぇ……幻惑させちゃったり、意識飛ばしちゃったり出来なくもないですが、誰に掛けるかって問題が」
「まあそれに就いては、いずれこちらの方で訓練の機会を作りますよ」
僕は訓練されるのか? なんだか何を話しているのか、さっぱり解らない。
「然し見事に、
「えっ、妻にも何か能力ありました?」
「本人気付いていないけどね。まあ使う機会も無いのかも知れないけど。弘和君の防御能力は由紀さん譲りなんだと思うよ。お前達が電撃結婚したのだって、そうした根底の所で通じ合うものがあったからなんじゃないのかな。自覚は無いんだろうけど」
「ええ、そうなんだ……でも気付いてないなら一生気付かない
「それは同意するよ」
「それと、いずれにしても、妻に弘和のことは……」
「云わないよ。秘密は厳守する。必要な時にはこのクラウンさんが、集団幻覚で秘匿してくれるから」
父は安心した様に僕を見た。
「ヒロ、お前
「えっ、何それ? 仮面ライダーとかみたいな?」
「うーん、まあ……そう……かなぁ?」
「ヒロくん、で好いかな?」
神田が僕を覗き込む様にして
「あっ、いや……僕もハンドルが好い」
「ハンドル?」
「ユーキとか……」
「お母さんの名前かな?」
「お母さんはユキ……僕は、ユウキが好い!」
「ええ、ヒロお前、自分の名前気に入ってなかった?」
父がちょっと悲しそうな声でそう云うので、僕は慌てゝ否定した。
「そうじゃないよ、自分の名前は大好きだよ! ただ、ハンドルにしてみたくて」
「ほら、クラウンさん、あなたがハンドルネームなんか使うから」
「えっ、わしの所為!?」
わし……とクラウンさんは云った。西の人かな。名古屋ではなさそう。
「変なもんに憧れるんだなぁ、子供って」
父は呆れた様に、それでも納得してはくれた。僕の能力の半分は母のモノだと云っていたし、母がそのことを自覚していないと云うのも寂しいから、ハンドルネームで母の要素を少しだけ……なんて考えていたのだけど、でも純粋に、ハンドルネームってなんかわくわくする。違う自分に変身するみたい。
「じゃあユウキ君、近い内にまた。ヒーリングの練習を一緒にしましょう」
そう云って、神田さんとクラウンさんは帰って行った。なんだか浮世離れした様な一日だった。
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