3日目 前半

『ちび』の夢をみた。


私と『ちび』は煌めく天の川の上をお散歩していた。

天の川には、無数の星々が散らばっていて、

オーロラがかっていて、とても美しかった。

私は『ちび』をだっこしながら、天の川の揺らめく道を歩き回った。

『ちび』は健康な頃の体格に戻っていて、自分で歩きたがった。

「駄目だよ、ハーネスもないしこんなところじゃ迷子になっちゃうよ。」

「でもこれって多分夢だね、夢ならいいのかな、大丈夫なのかな…。」

そんなことを呟きながら『ちび』のお顔を覗くと、目が合った。

『ちび』は微笑むようにゆっくり目を瞑ってくれた。

私たちの、「大好き」の合図。

その瞬間に涙が溢れて「ごめんね、ごめんね、大好きだよ」

「何も出来なかったね、私のせいだね、ずっとずっと一緒にいたいよ」

口からもそんな言葉がとまらなくなって、ぎゅっと強く抱きしめた瞬間

『ちび』の体は霧のようにゆらりと消えて、ひとつの美しい星になった。

ダメ、ダメ、そんなのだめだよ、嫌だ、嫌だ、いやだ、やだよ…、


起きたら枕が涙でじっとりと濡れていた。

起きた瞬間から呼吸がうまく出来なくて、胸が詰まって苦しくて、

喉と鼻の奥がヒリヒリと痛んだ。咳き込んではとまらない涙を拭った。

こんな日々がいつまで続くのだろう、と思う。脱力する。

身体を起こすことさえ億劫で、息を吸うだけで精いっぱいだ。


ペットロスを患ってしまった人に対して

「新しい子をお迎えした方がいい」という人を見かける。

私も以前「多頭飼いなら一匹看取った後もさみしくないね」と言われたことがある。

私はそういうことが言える人に問いたい。

お父さんが死んでも、お母さんがいたら大丈夫なのか。

わが子を亡くしても、養子をもらえばさみしくないのか。

なぜ人の場合だと代替はきかないのに、人以外の話になると

平気でそんな言葉が飛び交うのか、まったく理解できない。


『ちび』は唯一無二で、もうどこにもいない。

『ちび』にしか埋められない穴が、私の胸には空いている。

家族になった瞬間、私の胸の中には『ちび』が埋め込まれて

一緒に月日を重ねて、胸の中の『ちび』はどんどん大きくなっていって、

私の生きる糧になり、そしてそれが急に失われてしまった状態にあるように思う。

心に大きな穴がぽっかり空いて、生きる糧を失って、呼吸すらままならない。


今はひたすらに苦しくてつらいけれど、

それだけ愛しく大切な存在に出会えたことは、すごく幸せなことなのかもしれない。

『ちび』と過ごした日々は、本当に心からしあわせだった。

つらい時も悲しい時も、『ちび』がいてくれたから乗り越えられたし、

『ちび』のために生きられた。

『ちび』は私が看取らなくちゃいけない、それだけを考えて

自死を踏みとどまった日もあった。


3日目は、まだ10時間ほど残っている。

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