第6話

第6話



翌朝、クリシアに起こされた私は、迎えとともに、神妙な面持ちで厩舎に向かう。


 私がたどり着くと、厩番の若者が二頭の馬を厩から連れ出し、扉近くの木に軽く繋いであった。


「ブリアナ、来たな。馬に乗りたいと言っていたのならば、自力で乗れるだろう?」


 カフライは、少し意地悪な声音で言ってくるが、私はそれどころじゃない。


 その視線は、やって来たカフライよりも馬へまっすぐに注がれている。


「もちろん。馬には乗れるわ。カフライ、綺麗な馬ね。青毛と栗毛、毛並みがすごくよくって、いい感じだわ」


 極力圧巻なカフライを見ないようにと。


起きた時から念じた甲斐があって、歓声を上げる私の視線は、馬へ釘つけになっている。


「青毛は、王子である僕の馬だ。美しいのは、当然だろうな」


 少し苛立だしげにカフライは言い、私の近くに来る。


 私の顎をしゃくり上げ、カフライは自分のほうへ向かせてくる。


「な、何?」


「本当に乗れるのか? ブリアナが馬に乗っているところ、僕は見たことがないが?」


「久しぶりだけど、乗れるわ。私としては、乗馬を楽しみにしていたの。今日はやめにしようなんて、カフライは言わないでしょうね」


 私は、頭を振ってその長い指を振り落とし、カフライから一歩後ずさった。


 私としては、できるだけ距離を保っていたいと考えている。


 目に前のカフライは、どうしてもライオンらしく見える。


 自分が何もできないか弱い子猫のように思えて、仕方ないのだ。


 突然襲われて食われる心配は、野生のライオンではないから、それはないとはわかっている。


 それでも今は、魅惑的なブリアナの姿である自分としては、ウライフのように危ない目にあいそう。


 ブリアナと違って男性に慣れてないぶん、私自身それがとても怖いと感じている。


「ブリアナ、何でそう尻込むのだ? 僕は噛みついたりはしない」


「ウライフは、噛みついてきたわ。あのね、私は以前のブリアナじゃないの。だからあるていど距離を考えて欲しいの」


「なぜ?」


「なぜって……。三人揃って、本当に獰猛なライオンに見えて、突然襲われそうで怖いの!」


 私は、思い余って正直に言った。


 カフライは、一瞬呆気としたが、昨日のように笑い出してしまう。


「もう……。私は本気なのに。ねえ、カフライ。そろそろ馬に乗りたいけどいい?」


「わかった、わかった。まったく、昨日といい、本当に面白すぎるな。記憶のないブリアナは」


「そんなに面白くは……。あっ!」


 カフライが不意に両手を伸ばしてきて、私の膝裏に滑り込ませる。


 いっきに自分の両腕で、軽々と私を抱き上げてしまう。


 呆気とする私を栗毛の馬に跨らせると、カフライは私の鐙を調整しはじめた。

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異世界転移先で渇愛されても、王子の覚醒聖女候補の従姉の身代わりにはなりたくない。 猫山みみ @nekoneko0622

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