第9話

 第9話



 それは、すべて運命しだいですね。もえが呼ばれたのことも、紙一重でしたから」


「紙一重?」


「ええ。魔法がうまくいっても、シフィル様に気に入って貰えなければ、決してここへは呼ばれません。彼自身負担にもなってしまうことになります。よく熟慮しなければいけないことなのです」


「負担って?」


 私は、神妙なホアンの声音に、シフィルが心配で胸が潰れそうだった。


「召喚には莫大な魔力が必要で、シフィル様はかなり疲れてしまいます」


「それでシフィルは、疲れた感じだったのね。無理しちゃって、今後大丈夫なの?」


「大丈夫ですよ。本当にもえは、優しいのですね」


「優しくないって。これって人として当たり前のことで……。それほどまでしてブリアナの浄化を望むならば、やはりシフィルも彼女のことが好きだったことよね?」


 私は我に返り、嫉妬と寂寥感を感じながら言った。


「断じて違います。シフィル様は、ブリアナのことは嫌悪していました。浮遊する精魂があると、穢れを操る邪鬼に利用されやすく、面倒なのですよ」


 私の想いを払拭するように、ホアンはきっぱりと言う。


 少し安堵したものの、私はブリアナの件は他のことで不安を感じていた。


「ホアン、私は魔法とかって使えないわよ。ブリアナにしてもちゃんと見えるのかしら?」


「時が導いてくれますよ。シフィル様が選んだ娘である以上、宿命は降りてきます。問題はありません」


「そうやって、過大評価されても困るわ。私は平凡な女子高校生なのよ」


 自分に自信が持てない私としては、力強いホアンの言葉に慌てて言い返した。


「ブリアナとしてではなく、もえでいいのですよ。次の新月までの間、気を張らずにその心のままで動いてください」


「新月まで……。わかったわ。精一杯頑張ってみる。でも過度に期待はしないで」


 私は、ともかくそれは自分として困るので念を押してみた。


「もえは謙虚ですねえ。問題は何もないですよ。もえが心の底からこの世界を選ばない限り、新月にはもとの世界へ、地上界へは帰れる仕組みなので、ご安心を」


「そうなの。なら安心ね。私はまだおばあちゃんと過ごしていたいのよね」


 私は、確たる気持ちを確かめながら、自分に言いきかせるように言った。


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