第8話

第8話



 ブリアナが読書好きで社交家じゃない自分と正反対であることはわかっていたが、でも私の中では疑問は残っている。


「でも王妃って、華やかなイメージが強くない?」


「多少なりに華美な雰囲気は必要でも、ブリアナは誠実さに欠けていました」


「誠実さ?」


「ええ。宝石やドレスに靴と、際限なく求めてきました。王子たち以外の男にも擦り寄るという、悪いところも目立っていましたから」


「それは問題かもね」


 毒づくホアンに、私は何となく理解でき、眉を顰めてぼやく。


「二人の王子は、ブリアナと同じような享楽的なところがあります。彼女のことを卑下しながらも、気に入っていました」


「でしょうね」


「ブリアナがいなくなって、多少なりに気落ちしていると思います。もえが元気づけてあげてくださいね」


「だから、それは無理っ。私は私で、ブリアナじゃないから」


 ぶんぶんと首を大きく振って、私は言い募った。


「もえのままでいいですよ。記憶がなく真っ白ってことにしますから」


「本当のことを告げなくていいわけ? 何か間違っていない?」


 わけがわからずにいても、私としては厳しく指摘したつもりだった。


 だが、ホアンの表情は変わらない。


「今は、その時期ではありません。二人の王子にも花嫁を選ぶという試練が必要だと、申しましたでしょう?」


「試練、ね」


「そうです。ブリアナを演じることなく、もえのままでもいいのです」


「シフィルは知っているのでしょう? 三つ子ならば一緒にいると何となくわかるのでは? 迎えに来たわけだから、シフィル自身私の存在はわかっているはずでしょう? 双子の友達を知っているけど、結構以心伝心だって言っていたしね」


 私は、疑問に思ったことは捨てることはできない性分なので詰問してゆく。


 ホアンの表情は、相変わらずで動揺の色は見えない。


「シフィル様は、新月の夜だけしか覚醒できません。今回彼の為にももっと慎重にいかなければいけません」


「そうなの。シフィルには会えないのね」


 心底残念に思って、私は寂しそうに半ば睫毛を伏せる。


「もえは、シフィル様は気に入って貰えたのですね? ならば他の二人も大丈夫ですよ。同じ顔ですから」


 少し安堵した顔でホアンが言うので、私は思いっきり顔を顰める。


「大丈夫じゃない。同じ顔があと二人もいるなんて大変よ。シフィルのことだって、エレベーターのときに混乱していた私を慰めてくれたから、恩があるだけなの」


 私は、ホアンの言葉に必死に言い繕う。


 ライオンのような彼自身を思わず思い返してしまい、内心ぞっとしている。


 そっくりなシフィルが、あと二人。


 会いたくないような、会いたいような。


 私の気持ちとしては、複雑な心境だった。


「そうですか。ともかくブリアナからですね。もえがそう言うならば、自力で捜すのもよろしいでしょう。もし何かあれば私が補佐すると、約束しますし」


「そうしてね! 頼りにしているわよ、ホアン」


 ホアンの力強い言葉に、私は嬉しそうに満面の笑みになる。


「もえは本当に可愛らしいですね。きっとカフライ様もウライフ様も気に入ります」


「もうっ。だから私は、自力でブリアナを捜すの。無理なものは無理だから」


「それでも花嫁候補としての試練は受けて貰いますよ、もえ」


 私としては断固として否定したのに、ホアンは即座に切り返すように言ってくる。


「ホアン、しつこい。まずはブリアナでしょう? でもどのくらいかかりそう? 今は連休で学校はないけど、学生である以上、そのあと休むわけにはいかないわよ」


 私は、自分の現実を思い返し、心配そうに眉を顰めた。


「それは問題ないですよ。ブリアナは、海難事故で突発的だったので、対処しきれなかったのです。基本的には、様々なことを考慮して動きますから」


「問題ないのね。でも一週間くらいで捜せそうなの?」


 私は、ホアンの言葉に安堵はしたが、自分が動ける日数が気になっていたので問う。


「そういう意味ではありません。ここで過ごす間が長くても、あちらでは一日しか経過してないってことですよ」


「一日……。それじゃあ支障はないわね」


「ええ、ある程度は。まだ花嫁候補ですしから決まっていない以上は、もえにはあちらの世界での生活を大事にして貰いたいのです」


「ならよかったわ」


「まずは、新月から新月の間が滞在期間。相手としてシフィル様にも試練として、関わって貰っています」


「ブリアナのことは、その日数で間に合うの?」


 私としては、まずはブリアナのことを考え、日数を計算して不安を過らせて問うた。

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