第3話

第3話



「それは、どうしてですか?」


 ホアンの顔色は変わらず、淡々とした口調で問うてくる。


 なぜそんなことをホアンが詰問してくるのか、私は不思議に感じている。


 それでも現況としては、非現実なことが多すぎる。


 私自身あるいつもの警戒心は、薄れていた。


「どうしてって……。ブリアナは私が祖母から貰った大事な宝物を割ったからよ」


「宝物、ですか? それはいったい何を指すのです?」


 ホアンの顔色が少し変わり、その眼差しが鋭くなる。


 それに気づいている私だが、当時を想起していることもあり、興奮していて考えが止まらない。


「浜豌豆の花の形をした、クリスタルの置物。割れたときとても、いい香りがしてびっくりしたわ」


「浜豌豆の花、ですか?」


「ええ。そういえばシフィルの肩口のブローチにも浜豌豆が刻んであった? この部屋のシャンデリアも同じ形よね?」


 私は、我に返ってホアンを見る。


 ますますホアンの眼差しはきつくなり、何か意味ありげに顔を顰めている。


「……そうですね。あれはこの地、ラシラス王国の紋章です」


「ラシラス王国? きいたことがないわ」


 世界のすべての国を把握してはいないが、考古学の両親を持つので、私自身地理に疎くはなかった。


 ラシラス王国。


 確かに初耳のような気がするけど、何か引っかかる。


 あれ? どこかできいた?


 その名は現実の国ではないのは、確かだけど。


 違う。


 その名前って、確か……。


「……!?……」


 私は、思い出して思わず声をはりあげそうになるのを堪えた。


「ラシラス王国は、あなたの世界とは違う空間に存在しているのですよ」


ホアンが追い討ちをかけるように、言ってくる。


 夢のような現実離れした展開に、私は目をぱちくりさせた。


「ここは海聖界。もえがいた地上界とは違いますが、すぐ隣の世界なのは確かで」


 さらりとホアンは言う。


 私にとってきき慣れない世界だけど、知っている。


「……海聖界?」


ホアンとは会ったばっかりで、様子見をすることを決めた私は、不可解な今を確かめたくてきいてみる。


「ええ。主に海にまつわる種族が住んでいます。ここはいくつかある大陸の中で、一番南端に位置しています。異空間の扉が近くにあることもあり、様々な種族が流れ着き、暮らしています」 


「異空間の扉……」


私は、またもや聞き覚えのある名称に、軽い眩暈を感じて呟くように言った。


『異空間の扉~ラシラス王国王子達の覚醒聖女候補は、転移した異界の乙女』


 行方不明の母が副業で執筆していた、ライトノベルのタイトルにそっくり?


 これは、一体どういうこと!?




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