第3話

第3話



「シフィル、説明して。ここはどこなの? それに」


「ホアンにきけ。私は休む」


 私の言葉を介せず、シフィルはぶっきらぼうに遮って言い、すぐ横を通り過ぎてゆく。


「シフィル!」


 私は、シフィルを呼び止めようと手を伸ばしたが、するりと交わされてしまう。


「悪いな、もえ。僕としては、今すぐに君を認めるつもりはない」


 シフィルは淡々とそう言うと、マントを翻して遠ざかってゆく。


 追いかけようとした私の細腕は、ホアンによって捕らえられてしまった。


「お待ちください。力を行使したシフィル様には、充分な休息が必要なのです。ご理解くださいませ」


 何か言いかけた私の言葉を封じ、ホアンは温良な声音ながらも厳しく諭してきた。


 ホアンの言葉に、私は足を止めた。


 確かに、わずかながらシフィルの顔色に疲れは感じられ、ホアンの言葉に納得してしまう。


 精緻なレリーフが施された大きな両開きの扉から、すぐさま出てゆこうとするシフィルの後姿を見つめている。


「……」


 シフィルが姿を消すと、ホアンの手が離れたので、ぐるりとまわりを見渡した。



 私にとって、どう考えても初めて見る景観だった。


 白い大理石の床と円柱のある広い円形の部屋だった。


 円形の床には円柱が立ち並び、一面の窓の外にはテラスが見える。


 私が振り返ると、エレベーターのあった形跡は跡形なく消えている。


 ますます私の胸の鼓動は波打ち、不安は募る。


 なぜかその全てに既視感を覚えているし、少しずきすぎと片頭痛を感じていた。


「もえ、応接室へ行きましょうか。ここは儀式の神聖な間、寛ぐことなどできません」


 私が周囲の確認を済ませた頃、それを見計らってホアンが声をかけてきた。


「……確かに、ここって寛げそうにはないわね。えっと、ホアンって名前だっけ?」


 ホアンに向き直った私は、流華な黒檀の瞳で彼をじっと見つめる。


 中世的な端艶な顔立ちで穏やかそうな表情を浮かべるのに、ホアンには隙一つ見受けられない。


ひとくせ、ふたくせありそう?


そんなこと、ついつい考えてしまう。


「ええ、そうです。ではもえ、行きましょうか」


「わかりました」


 私は、仕方なく小さく頷き、ホアンとその場をあとにした。




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