第2話

第2話



「シフィル様、お帰りなさいませ。どうでしたか?」


 不意に、恭しい声音が響いてきた。


 私は、我に返り前方へ視線を向ける。


 扉の向こうにいるのは、シフィルとは正反対と言える別の美貌の青年だった。


 私の目は、思わず釘づけになる。


 彫りが深い中世的な顔立ちに、美形の男性だった。


 ロングドレスのような衣装は、白いローブの上に緑柄の縁の入った白いストールを羽織っている。


 年齢は、シフィルと同じ二十歳中頃に見えた。


 明敏な瞳は、茶水晶。


 藍墨色の長い髪を後手にゆるく三つ編みしていた。


「予想以上に面白い」


 シフィルは、楽しげに言い、私を自分の抱き上げたまま、狭いエレベーターから出て来た。


「さようですか。派手なブリアナと違い、幼げで清楚な感じですね」


 私やシフィルを好奇心あらわにしげしげと見ながら、青年は言う。


 私は、現実で初めて見る圧巻とした雰囲気の二人に呆気としていた。


 聞き覚えのありすぎる、その名前に我に返る。


「今、何て言ったの?」


 二人を交互に見つめ、私にとって予想外すぎる名前に、目をぱちくりさせている。


「ホアン、もえを頼む」


 質問にシフィルは応じることなく、エレベーターから出ると、私を自分の両腕からその場へおろしてしまう。


 自分が見たことない景色も相まって、私は動揺のあまりに、身体は小刻みに震えている。


 それでも気丈に両足を踏みしめ、シフィルに寄りかからないように気を張っていた。


 シフィルに魅かれている気持ちは、相変わらずあるけど。


 さすがに、シフィルとは出会って間もない。


 とても気になる名前を耳にして、不可思議な感覚が身体を襲い、熱を帯びてきている。


 それが解けるまで、理解できるまでは、目の前のシフィルにすべて寄りかかれるほど、私は無防備にはなれなかった。

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