第2章 エレベーターの先は? 第1話

第1話



 突如、エレベーターの扉が開いた。


 唇を離したシフィルは、低い呻き声を上げる。


 びっくりして瞳を開けた私を、シフィルは自分の両腕で抱き上げてしまう。


 キスで濡れた唇が疼き、小刻みに震えている。


 私は、腫れた唇に手を当てた。


 ゆるゆると視線を上げ、自分をお嬢様抱っこしているシフィルの美貌を明るくなった室内で確認した。


 あんなに安心して自分の身を任せていたが、目をぱちくりさせ、その姿にぞっとした。


 私の目に映る男性は、美貌が際立つものの、予想以上に大柄で剛勇無双。


 まるで気難しいライオンのような青年。

 

 身体の隅から隅まで力が漲っていて、いかにも意志強固。

 

 艶やかで光沢のある淡紫色の髪は鬣のように靡かせている。


 流麗で黄海松茶と、茶水晶の色違いの瞳をしている。


 その上本かテレビじゃないと特別に見ることは難しい、マントを羽織った中世のコスプレのような格好をしていた。


 将校の軍服に似た、淡紫の立襟の衣装だった。


 黄海松色のマントは、袖のない長いもので、上質で裏地や飾りのついた高価な生地で作られている。


 宝石や金糸で細工された赤紫の蝶のような花、浜豌豆の紋章入りのブローチで、彼の左肩に留めてあった。


 あれは間違いなく、浜豌豆の花?


 私の胸奥に引っかかっていたが、それを払拭するほどに、シフィルの全てに圧倒されてる。


 その美貌は、すべて金糸で精密な刺繍が施された豪奢な衣装が嫌味なほど似合う。


 シフィルは、圧巻な雰囲気を醸し出していて、私は思わず身震いした。


 シフィルは、予想していた子羊のように大人しい男性とは明らかに違う。


 わずかに翳る顔色から疲れを感じたが、獰猛な百獣の王のような絢爛豪華な青年だった。


 私は、シフィルの見事な立ち姿に、驚きのあまり口を大きく開け、ぽかんとしていた。


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