第7話
第7話
これまでの自分が相手の気持ちを推し量るのに、仕草や顔の表情をどれほど参考にしていたのか。
今さらながら、痛感している。
「……少し、怖いけど、大丈夫」
自分の気持ちを抑えながら言う。
シフィルは、私の肩に自分の腕を回してきた。
「もしかして、かなり長身?」
私の中で予想以上に嫌悪はなかったが、シフィルの逞しい体格に気づき、意外そうに問う。
「当然だろう?」
「当然って……。私の印象では、とても物静かそうで、見かけも威圧的には思えなかったけど」
「もえは、不安がっているから、不必要に怖がらせないよう、我ながらこれでも努力しているつもりだ」
「そう。ありがとう」
一呼吸置いて、シフィルの気遣いや優しい声音に礼を言った。
「どういたしまして」
シフィルは、くすりと笑ってそう言い、私の額に触れてくる。
まっすぐに整えられた私の前髪を、シフィルは自分の長い指で撫でてきた。
「……」
何だかそれが心地よく感じ、甘えたくなってしまう。
少し身を寄せ、私は顔を仰向けた。
暗闇の中、シフィルが見えないのは、わかっている。
それでも、シフィルの息遣いが自分の頬にかかるのを感じていた。
「……本当、もえは可愛いな」
シフィルの呟くような、艶ある声音がきこえてくる。
刹那、ふっくらとした朱色の唇の上に、暖かな感触が重なってきた。
「!」
私にとって、正真正銘のファーストキスだった。
それは、とても柔らかく心地いいのに。
切なさで、胸奥がじんと疼いてゆく。
爽やかな浜豌豆の香りが、鼻孔を擽った。
どうしても覚えがある爽やかな香りが、安心させる。
見知らぬ男に唇を塞がれたという、ありえない状況。
それなのに、その香りに。
シフィルと触れ合った感触に溺れ、甘くとろけてしまう。
抗う気力は、みるみるまにすっかりと失せてゆく。
シフィルは、私の顎に手を添えてくる。
さらに深く、口づけてきた。
ぬめる舌先で、ふっくらとした朱色の唇を舐めてしまう。
ぶるりと震え、薄く開く。
シフィルの長い舌先は、そのまま口腔へ忍び込むと、私の舌へ絡めてきた。
私の肢体に、鮮烈な微弱電流が走る。
それは、私のすべての神経にゆきわたっていったーー。
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