第2話
始まりは、小学生の時だった。当時の私は背の低い太った眼鏡っ子で、顔にはたくさんのニキビができてた。髪はゴワゴワで、美人なんて言葉からは程遠い容姿だったの。それで男の子たちは遠くからはやし立てて私をからかったし、女の子たちは仲間外れにした。みんなが怖くて、私はずっと考えてた。学校なんて行かずに、一日中ペットの小亀を眺めていられたらどんなにいいだろうって。
でも五年生のある日、その後の人生を大きく変える人と出会ったのよ。
「あなたの願い、叶えてあげようか?」
学校へ行く道すがら、やっぱり無理だと公園のベンチに座ってたら話しかけられた。高くて透き通った鈴みたいな声に。驚いて見上げたら、声から想像したよりも、もっと美しい姿があった。輝いて見えるほど白い肌に、緩くウェーブした肩にかかる金髪。目は緑色で、咲いたばかりの花みたいな清楚で可憐な雰囲気をまとった女の子だった。
だけどね、私が驚いた一番の理由はあの子が綺麗だったからじゃない。羽だよ。そう、あの子の背中には、大きな大きな白い翼があったの。ぽかんとしてたら、女の子は鈴を転がすように笑った。
「聞こえた? あなたの願いを叶えてあげるって言ったのよ」
願いって?
慌てて尋ねたら、やっぱり可笑しそうに笑うんだよ。自分の願いが分からないの? って。そうして、私の頬を白くて細い両方の手で包んだ。
「あなたの願いは、これでしょう?」
そんな言葉が聞こえて、手が顔から離れた瞬間、爽やかな風に吹かれてでもいるような清涼感が来た。何が起こったか分からなくて、無意識に頬に触れた私は、はっとした。そこにあるはずのニキビがなくなってたんだよ。
私が「なんで?」って訊くと、女の子は説明した。
「私は美を司る女神、ヴィーナス様の使いの者なの。美の天使ね。それでね、あなたが私のお友だちを助けてくれたから、その美しい心に報いなさいってヴィーナス様が仰ったの。だから、これからはあなたの側にいて、あなたの望む美を与えるわ」
私は首を傾げた。だって、全く身に覚えがなかったんだから。だいたい、あの頃の私には誰かを助ける余裕なんてなかった。自分のことすらままならなかったんだしね。だから言ったんだよ。それは何かの間違いだって。そうしたら、あの子ったら、
「じゃあ、どうしてあなたのお家にかわいい小亀がいるの?」
なんて言ったんだよ。
まあ確かに、私が当時飼ってた亀は、公園でいじめられてるのを助けたものではあった。子どもたちから棒やら小枝やらで小突き回されてるのを見てたら、かわいそうでね。抱えて逃げて、そのまま飼うことにしたんだよ。でも、だからってそれを「人助け」みたいに言われるなんて。『カメの恩返し』じゃないんだから。それで、言ったんだ。私のことからかってるの? って。
「嘘じゃないわ。ずいぶん疑り深いのね。ねぇ、どうしたら信じてくれる? ヴィーナス様のご指示は絶対だから、私、あなたが満足できるまで天界に戻れないわ」
女の子は、うーんとあごに手を当てて考えてたけど、ちょっとすると目を輝かせた。
「もう一つ、あなたの望む美を与えてあげるっていうのは、どう?」
返事も待たずに、また白く可憐な手が伸びてきた。私のメガネを外し、目元を包んで言うの。
「今度は眼鏡をかけなくてもいいようにするわね。ついでに、くっきり二重にもしてあげる」
歌うような調子の声がして、何秒か後には手は離れたていた。
「ほら、かわいくなった」
鏡もなしに自分の顔を確認はできなかったけど、それでも私は彼女の言葉が本当だと認めざるを得なくなった。だって、彼女が手を放した途端、眼鏡を外したままでも全てのものがクリアに見えるようになってたんだから。驚く私をよそに、やっぱり彼女は涼し気な様子で微笑んでた。
「ほら、もう眼鏡なんてなくても、よく見えるでしょ」
あんまり当たり前みたいな態度だから、私もなんだか妙に落ち着いてきちゃって、そうしたら気づいたの。彼女の、ある変化に。
醜い美女のよみがえり ぞぞ @Zooey
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。醜い美女のよみがえりの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます