醜い美女のよみがえり

ぞぞ

第1話

 私、とっても醜いの。

 そう言い、目の前の女は顔の横の後れ毛を、そっと耳にかけた。その指はほっそりと白く滑らか。よく見えるようになった顔周りの素肌は陶器のようだ。長い睫毛に縁取られた大きな目。通った鼻筋。整った薄い唇は、微笑めば優しげに形を変えた。

「ごめんなさい。美人インフルエンサーの特集なのに、そんなこと言われても困るよね」

「いえ、いいです。続けてください」

 平坦な声で返すと、女は眉をひそめた。

「変わった人だね。私が自分を『醜い』って言うと、みんな冗談扱いして笑うのに」

「意外性あった方が良い記事になるし、今さら冗談なんて言わせませんよ」

 こちらを見つめる目が、瞬きを忘れて固まった。数秒の間、まだ客のまばらな早朝のカフェは、店員がカップを運ぶカチャカチャという音だけになった。

「さ、話してください」

 女を急かして、スティックタイプのボイスレコーダーを向ける。分かった。そう応えて、女は縁に金彩をあしらわれたティーカップを傾けて、ひと口、紅茶を飲む。それから、ふうと息をつき、遠い目をした。

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