第18話 いつかのために
---世界はきっと。ちょっとだけ理不尽だ。そう、思うようになったのはいつからだったっけ?
先程の事を思い出しながら、朝食の食器を片付ける。ふと、思い出すのは慌てたようにコロコロ表情が変わるホダカの顔。
---楽しかった。
普段とは違う朝食の風景に浮き足立ってしまった自分がいた。
でもそのせいで、ホダカの視線が少しずつ痛くなっていく気がする。
私はホダカを利用している。
そう、彼の甘さに図々しくも胡座をかいて。
彼はどうしようもなく優しいから、最後は「しょうがないな」って笑ってくれる。それを期待して。
「---私ってずるいなぁ」
小さく吐き出したつもりなのに、案外大きかったようでネルがクスクス笑っている。
「あら、いいのよ。ズルくたって。
---ズルは人間の特権よ。」
そう言ってネルは私の膝の上に座った。
「じゃあこれは、猫の特権?」
膝の上で丸まろうとするネルに意地悪く聞いてみた。
ネルは「そうね。」と楽し気に笑うと、私の方をじっと見てくる。なんだか、見透かされそうで息を呑んだ。
「貴女はどうしたいの?」
唐突に、でも既に決まっていたかのような口ぶりでネルは問いを投げかけている。
何に対してなんだろう。
そんな疑問とは裏腹に、私の頭に浮かぶのは、慌てん坊のホダカの顔だった。
「ネルは、彼を。
ホダカを…元の世界に返す方法、知ってるんでしょ?」
ネルは知ってる。
きっと、全部知っているって私には漠然とした確信があった。
「そうね。
でも。今はまだ、知る時ではないわ。」
知る時じゃないって、なんで…。
私はホダカを元の世界に帰してあげたい。
この思いはちゃんと本物だ。
ネルは私の膝の上からピョンと降りて、体を目一杯伸ばした後、言葉を続けた。
「貴女が貴女の真実を見つけたら、その時は教えてあげる」
「---私の真実?
なにそれ。ちょっと意味がわからないよ。」
私の不安はわかりやすいのだろう。
ネルは私の頬に前足を添えて、諭すように優しく語りかける。
「優しいコノハ。
貴女がどんな選択をしても、私は貴女の味方よ。」
そう言ってネルはフワッとその場を後にした。
「なんの答えにもなってないじゃん。」
それが少し可笑しくて。自然と笑みが溢れた。
今じゃない。
ということは、いずれちゃんと分かるって事だよね。それに、ホダカには帰れる選択肢がちゃんとある。
---なら。
ちゃんと、帰してあげよう。
彼の本当にいるべき場所へ。
悲しみなんてなくて、健やかに暮らせる。そんな明日が当たり前にある世界へ。
---私が生きている間に、絶対。
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