第8話 微笑みに咲くもの



広場では沢山の人々が、思い思いの時間を過ごしていた。


歌う人、踊る人、奏でる人、芸を披露する人

中には道の端で絵を描く人までいる。


「…ここ、なんか賑やかだな」


「そうかな?いつもこんな感じだよ?」


こんなに賑やかなのは、元の世界では週末くらいだろう。

道ゆく人々はどこか穏やかで、暖かさを纏っていた。

こんな場所で育つと、こうなるのか?

なんて、隣のコノハに視線を向けると---


「巫女さまだ!

僕たちのためにありがとう!」


と、小さな男の子がコノハに花を渡していた。


---巫女?これが?

僕の浅薄な知識では、巫女って、もっとこう…

お淑やかで、上品な大和撫子のような女性。

どこを切り取っても真逆の様に、可笑しさが込み上げてくる。


---ヤバい、吹く。


ブハッ。

意図せず出た僕の笑い声に、コノハはくるっとこちらへ向き寄ってくる。


「ねぇ、ホダカ?

また、失礼な事考えてたでしょ?」


「アハハ!


そんな事ないって!でも、巫女ってアレでしょ」



神の声を聞く、みたいな。と続くはずだった言葉は、僕の口からは出せず、無様にも行き場を失った。

それは、ほんの一瞬だけ。気のせいだと言われたらそれまでの些細な翳り。


「ごめん、笑って。

傷つけるつもりは、なくて。」


「もー!私だって傷つくんだぞ!」




そう言って笑う。君の笑顔は、先程の翳りを吹き飛ばす春の疾風みたいだった。




きっと、この熱を帯びた安堵を僕は忘れられないだろう。

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