第7話 初夏の影
---暑い。
ここに来てから、ずっと。
気づかないフリをしていたが、身体は嘘をつけないらしい。
ここは、"今の僕"にとっては暑すぎるようだ。
それもそうだろう。
街ゆく人々は薄手の--綿素材のような服。
中には半袖を着た者達までいる。
時期で言えば、多分、ゴールデンウィークくらいの気候なのかもしれない。
そんな中、僕はあまりに季節外れで---。
そう言えば。
最近、冬の制服に変えたんだったっけ。なんて、思い出した。
黒い学ランはあまりに浮くようで。
嫌に目立つことに今更ながら気づいた。
そんな僕には相変わらずお構いなしの彼女。
コノハは、まだ行きたいところがあるようだ。
「あっちは、風車があってね!」なんて
彼方此方を指差して、クルクル回る。その姿はまるで踊っているみたいに楽しそうだ。
そんなコノハを少し静止して、黒い学ランを脱ぐと、風がすっと、通り抜けた。
心地よい風を肌が感じている。
「ここは…時間を忘れるな…」
まるで時間の感覚がないように。
穏やかに、緩やかに---僕に染み込む。
久しぶりの楽しい感覚。
子どもの頃、夢中で遊んだ夏休みみたいな、そんな感覚だ。
「ねぇ、ホダカ!
向こうで誰か歌ってるよ!」
そう言って僕の手を掴んで走り出す君は、
ここにいる誰よりも眩しい。
繋いだ手の温もりがより一層、僕をいそいそとさせる。
まるで今を生きているように
---命の炎を燃やすように
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