第2章
第6話 イチゴと名前のない桜
結局、一週間と言う期限付きの恋人契約が締結した。
どこまで王道な少女漫画だよ。なんて心の声はこの際無視だ。
「---そうと決まれば、行くよ!」と手を引かれて来たのが、体感としては1時間くらい前。
変な女。---コノハはあまりにも性急だった。
それは、時間が勿体無いというように、僕を連れ回してはキラキラと笑う。
手を引かれて走って来たここは、本当に異世界なんだと実感する。
来る途中に見えた変な山が、それを僕に焼き付けた。
その変な山---モノノハナ霊峰は、火山らしい。
火山だと言うその山にはデカデカと一本の木が生えている。
あれはどうみても---桜だよな?
薄いピンクの花が咲き誇り、言うところの満開。
僕の世界ならあの木の下でお祭り騒ぎが目に浮かぶ。
そう思ってコノハに聞いてみたが、あの木の名前は"ない"らしい。
それもそれでどうなんだ?と疑問は尽きないが、より奇妙なのはこの山を中心に五つの街ができていると言う事だ。
そして僕はその中心地、モノノハナの麓にできた街。
---ナグナ街に来ていた。
デートの定番スポットといえばココ!と強引に連れられた街はとにかく活気付いていて。
其処彼処から人の声がする。
無理矢理に例えるなら---北欧の街並みのようだ。
丸く舗装された石畳の広場を囲むようにして、小さな木造の店々が軒を連ねている。看板には見慣れない文字が異世界味を増している。
窓辺には色とりどりの花が並んでいた。
「ホダカ!こっちだよ!」
なんて、はしゃぐ彼女(仮)は噴水の方を指さしている。
噴水の側では食べ歩きができそうな屋台が並んでいて、密かに僕の空腹感を刺激していた。
「おじさん!これ二つね!」
コノハはそう言ってお金を払うと、まだできたばかりの肉串を頬張って--僕をみてくる。
どうやら食べろと言っているようだ。
恐る恐る口に運ぶと、知っている、食べなれた味がした。
「ん、これ---牛?」
「--そう!これウシ!
ホダカの世界にもいるの?」
---偶然の一致か、それとも似た文化があるのか。
隣にいるコノハは「ふぇー!いっひょなんらぁ」なんて驚いてはいるが、さして興味もないようで。
自分の串を早々に食べ終えて次の店を探している。
「今度は……あそこ!」
指を指した方へ視線を送ると、色とりどりのフルーツが串に刺さって売られていた。
「あれって、フルーツ飴か?」
「やっぱり!
ホダカの世界って似てるのかな?」
コノハ曰く、"フルーツ"は一般的な言い方ではないようで、外国の言葉…らしい。
試しにと、店に並ぶ果物を指さして名前が当たるのか。なんて子どもじみたゲームが始まった。
せーの。
「「イチゴ!」」
ピッタリと重なった声。
顔を見合わせて笑う様は中々にデートみたいで。
---僕はココへ来てはじめて、声を出して笑えたんだ。
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