第5話 嘘でもいいから



さぁ、大変だ。

僕はどうやら変な女に目をつけられようだ。


危うく、見て呉れに騙されるところだった。


このコノハと名乗る奇人は"異世界から来た不審者"

なんて軽く飛び越えるくらいには、おかしい。

---普通じゃない。


僕の再起動した頭は、クリアになった分だけ必死に働き始めた。この異常な女から逃げるために、爆速で。



そんな僕の思考を読んだように、彼女の手により僕の腕は捉えられた。


「ねぇホダカ。


すごく、すごーく、失礼な事考えてない?」



「いや、そんな…!


…異常な女から逃げようなんて」



それって私の事?

--なんて口を尖らせて怒るコノハは

「失礼だなぁ」と、どこか他人事のように呟く。




「考えてもみなよ。」と続ける彼女は、人差し指を僕に向けた。



軽く息を整えると声高に言い放った。


「---私と恋人になれば


衣・食・住!確約されます!」



行くところないんでしょ?と続けた彼女は得意気に笑っている。 




---完全に足元見られてるな。

ちょっと見下されてるまである。


僕に断る余地がないのをいいことに彼女の独壇場はさらに続く。



「なんだったら私。


ホダカの命の恩人ですらあるんだから!」



---なんだこの奇怪な女。

なんて恩着せがましい。



ここまで僕の反論の余地を無視したプレゼンはどうやら一息ついたようだ。



やっと僕の番かと、今日1番のハリのある声が出た。

体育会系さながらの声量だ。



「ーーそもそも、なんで恋人?!


恩を返すなら、なにも恋人である必要ないでしょう?」


僕の中から先程までの敬語が嘘みたいに消えた。

どうやら僕は、この変な女に敬意を示すのが嫌らしい。



目の前でケラケラと楽しそうに笑う彼女の顔に、ほんの一瞬だけ、影が刺した。



 ---人生で一度くらい。



「嘘でもいいから恋、しよーよ!」



あの一瞬は気のせいだったみたいだ。

今の彼女はまた、笑っている。


クルクル変わる表情はまるで無邪気で、眩しくて。

僕の意見なんて気にも留めない、そんな日差しみたいだ。

なにも知らない様で、全てを知っているような。




不思議な彼女と、半ば強引に疑似恋愛契約させられたのは---言うまでもない。






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