第18回空色杯【500文字未満の部】

かみひとえ

Time the Ripper

 時間が、連続した点の集合だとしたら。


 もし、その点の一つでも切り落としてしまえば。


 そこに存在する全ては、些細な綻びからほどけて失くなってしまうのではないだろうか。


 時間とは、逃れることのできない残酷な運命。


 縫い合わせることも、摘出することも、犯すこともできない、神聖なる絶対不可侵領域。


 そこにもし、この小さな刃先のほんの僅かでも差し入れることができたなら。


 もはや時間の超越とは、この世界の理を超越することに他ならない。 


 私はついにそれを成した。


 連続する時間の点の一つ一つを視認し、それを鋏で切り刻む。


 かちかちと秒針を刻むのも、どくどくと心臓を鳴らすのも、私にとってはどちらも一緒。


 鋏の切っ先を合わせてしまえば、それらはいとも容易く動きを止める。


 そして、世界は崩壊する。 


 綻び、崩れ、かちかちと血を噴き出して死んでゆく。


 もはや、ここに意味はない。ばらばらの肉片となった世界に何の愉楽もありはしない。


 だから、私は。


 未来を振り返り、過去を待ち望み、今、世界を超越しよう。


 この意味亡き世界が、その身を刻む意味を持つその時まで。



 ――時は1888年、イギリス、ロンドン。


 史上最悪の連続殺人鬼が闇より現れ、忽然と消える。

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第18回空色杯【500文字未満の部】 かみひとえ @paperone

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