EP 17
ルミラス村の厄介者と、その名も「どんぶりパーティー」
ララリララ大陸の太陽が西の山々の稜線に隠れようとする頃、田中貴史たち一行は、街道沿いに現れた「ルミラス村」という名の集落にたどり着いた。ププル村よりは少し大きいが、それでも素朴な雰囲気を残す村だ。石畳が敷かれた広場を中心に、木組みの家々が並んでいる。旅の疲れもあり、貴史たちはここで一晩の宿を取ることに決めた。
村の小さな宿屋で部屋を取り、ロードを馬小屋(特別に大きなスペースを貸してくれた)に預けて一息ついていると、宿の主人が慌てた様子でやってきた。
「旅の方々、村長がお会いしたいと申しております。特に、そちらの屈強な女性の方に…」
主人の視線は、明らかにモウラに向けられていた。彼女の腰に下げた棘付きメイスと片手斧、そして鍛え上げられた肉体は、どこからどう見ても「ただの旅人」ではなかった。
村長の家へ案内されると、そこには恰幅の良い、しかしどこか疲れた表情を浮かべた初老の男性――シリウラ村長が待っていた。
「これはこれは、遠路はるばるようこそルミラス村へ。皆さま、長旅でお疲れのところ申し訳ない。特にそちらの…お嬢さん。一目で腕利きの戦士様とお見受けいたします。実は、折り入って頼みたい儀がございましてな…」
シリウラ村長は、モウラに向かって深々と頭を下げた。
「ん? アタイかい?」モウラは腰の片手斧の柄を軽く叩きながら、悪戯っぽく口の端を上げた。「何のようだい、村長さん? ま、聞かなくても大体の要件は分かるがね。この手の話は慣れてるのさ」
その言葉には、数々の修羅場を潜り抜けてきた者の自信が滲んでいた。
「は、はい…」村長はごくりと喉を鳴らす。「実は近頃、村の近くの森に、シルバーベアという凶暴な熊の魔物が住み着いてしまいましてな。畑を荒らし、家畜を襲い、村人が森に入ることもできず、大変困っておりますのです」
「シルバーベアか…そらまた厄介なもんが住み着きおったな。あれは普通の熊より遥かにデカくて頑丈やからな」
ロードが、貴史の背後から(いつの間にかついてきていた)顔を出し、唸るように言った。
「まぁ大変…! 村の皆さんも怖かったでしょうね…」
ルーナも心配そうに眉を寄せる。
「良いぜ、村長さん」モウラはニヤリと笑った。「そのシルバーベア、アタイが片付けてやる。ただし…アタイの腕は安くないぜ?」
彼女は親指と人差し指で輪を作り、報酬を要求するジェスチャーをする。
「も、勿論でございます! 村の総力を挙げて、相応の報酬をお約束いたします! どうか、お力をお貸しください!」
シリウラ村長は再び深く頭を下げた。
「よしきた!」モウラはパンと手を打つ。
「ではモウルたん、頑張るでござる! 拙者たちはここで応援してるでござるよ!」
貴史が暢気に声をかけると、すかさずロードのツッコミが入った。
「何を呑気なこと言うてますん、ご主人!? あんたさんも行くに決まってますがな! ポイント稼ぎのチャンスやないですか!」
「そ、そうよ、貴史!」ルーナも力強く頷く。「私達は、もう『どんぶりパーティー』なんでしょ! 一緒に解決するのよ!」
「ど、どんぶりパーティー…って、一体何でござるか、そのネーミングセンスは…」
貴史は思わずこめかみを押さえた。いつの間にか、そんな珍妙なパーティー名がまかり通っているらしい。
「皆…」モウラは貴史、ルーナ、そしてロードを順番に見回すと、不敵な笑みを浮かべた。「よっしゃ! なんだか楽しくなってきたぜ! 久々に気合い入れて、いっちょ暴れますか!」
「ま、待つでござる! 拙者、急に…そ、そういえば腹の調子が悪くなってきたような気が、しないでもない、ような…あいたたた…」
貴史は腹を押さえ、苦痛の表情を浮かべてその場をやり過ごそうとしたが、
「つべこべ言わずに、はよ来なはれ、ご主人! 獲物の匂いはもう掴んでまっせ!」
ロードは、その大きな頭で貴史の尻をぐいと押し、有無を言わさず村の外へと連れ出そうとする。
「ひぃぃぃ! だから拙者は戦闘員じゃないと何度言えば分かるでござるかー!?」
貴史の悲痛な叫びは、頼もしい仲間たち(と食いしん坊の賢竜)の背中に吸い込まれていく。
こうして、田中貴史はまたしても本人の意思とは裏腹に、シルバーベアという新たな脅威との戦いに巻き込まれていくのであった。
ルミラス村の森の奥深く、月の光もおぼろな獣道を進む一行。その先には、果たしてどんな戦いと、そしてどんな「どんぶり」が待っているのだろうか。
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