ネラの過去


 さて、ネラさんが統治に困ることなどほとんどありません。

 なんせ周りの随員が優秀で、テキパキと処理してくれるのです。


 大体、ヒトを執政官として派遣する場合、問題のない世界と決まっているのです。

 今回はいささか懸念されることがあるので、下準備などは徹底して、用意周到に計画されたのです。

 ここまで計画されたのですから、誰が執政官でも問題ないと皆思ったのです。


 でも、この惑星テペ・シアルクの執政官は、ネラさんでなければならないと、ヴィーナスさんが強く押したのです。

 ネットワークの最高権力者のヴィーナスさんの意向ですから、これっぽっちも問題があってはならない……


 周りはどう考えているかはしれませんが、ヴィーナスさんが推薦したのは理由があるのです。


 ネラさんは元々エラムの犯罪組織に買われた女奴隷で、美人局を生業にしていたのです。

 ウィルヘルムをその美貌でたぶらかして、モルダウ王国を転覆させる駒として、使い捨てにされようとしていたのです。


 幼少期に親に売り飛ばされ、徹底的に夜伽の奴隷として教育されたのです。

 もとはちゃんとした良家の出で、祖父の頃は何不自由のない生活だったのです。


 母が麻薬に溺れ、父も引きずられるように麻薬中毒、薬を買うために両親はすべてを売り、最後は娘も売ったのです。

  

 ネラさんを買った犯罪組織はとんでもない組織で、犯罪はなんでもありですが、そのルーツは『食人習俗』の集団が元なのです。


 その昔、エラムの南部のさらに辺境の村では、常に飢餓が隣り合わせで、人が死ぬと、屍を村人が食べたのです。

 さすがに周りにははばかられますので、この村の秘密を漏らした者は口封じに殺害、これまた食べられていたようです。


 そのような村も歴史の中に消えていったのですが、『食人習俗』がやめられない者が同志的に結束して、犯罪組織に成長したわけです。

 もちろんヴィーナスさんは、このような集団の存在を知った瞬間、人知れず抹殺したのです。


 美人局をしていたネラさんを見た瞬間、ヴィーナスさんはネラさんの過去を把握したようなのです。


 ネラさんのウィルヘルムへの愛は本物でした。

 その愛の力で犯罪組織のいいなり、命じられたらなんでもする、思考などない、ただの生きている人形のようだった状態から、自分の考えで行動するという自主性を取り戻していたネラさんを、評価したようなのです。


 今回、このネラさんの経験が必要と、ヴィーナスさんは判断したのですね。


 ある日、いろいろな事務的な決済が一通り終わり、『聖帝ネラ』はキシュの神殿をお忍びで抜け出します。

 お忍びといっても、『トゥイーニー・オートマトンRTA001型』と『CTR2型』が付き従っています。

 キシュの良家のお嬢様といういで立ちです。


「お嬢様、どこへ向かわれるのですか?」

 『トゥイーニー・オートマトンのRTA001型』が、いかにもお付きのメイドの雰囲気で声を掛けました。

 女傭兵の格好をした『CTR2型』が周囲を警戒しています。


「奴隷を買いに行こうと思うの♪」


 キシュの奴隷市場では、どうやら『食用奴隷』も売っているようなのです……

 大っぴらではありませんが、かといって禁止もされているわけではありません。


 ……なんとか、この『家畜制度』の残滓たる『食用奴隷』の売買はなくさなくては……

 ……マレーネ様は貧困故なので、洗脳しても難しいとおっしゃっておられたわ……


 ……多分、私がここの執政官に任命された理由と思うけど、きついわ……

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