18
母親から受け取った大学のパンフレットを部屋で開きながら、彼は椅子に体を預けた。
「知らなかったな」
この大学のことも母親のことも。
今まで母親なりに彼の為に調べて、興味がありそうな分野を読み上げていたのだろう。
結果的に彼が母親を疎ましく思うことになってしまった。
親の心子知らずであり子の心親知らずなのかもしれないと彼はパンフレットを閉じた。
「でも、この大学いいな」
美術関係のサークル内容に興味もあるし、今の彼の成績ならば合格ラインに入るだろう。
これも特色BGMがなした成果かもしれない。
彼は心の中で母親にありがとうと呟いた。
今は面と向かって言う気にはなれないが、卒業して大学に入れたら改めて伝えようとパンフレットを机に置き、彼はノートを開いた。
進みたい場所があるのならば、ひたすらそこに向かって動き続けるしかない。
彼は絵のノートと勉強のノートを交互に見ながら、深呼吸をした。
「大丈夫。楽しいことはたくさんある」
そのとき、彼の頭の中に懐かしい光景がよぎった。
オレンジ色の夕焼けが眩しくて、目の前には手紙をくれた女性。
確か、どこかの制服を着ていて・・・。
「なんで話したんだっけ?」
誰に問いかけた訳でもない。
しかし、その呟きは自身の心にゆっくり染み込み、記憶を探ろうとする。
「まあ、いいか」
きっと大したことではないだろう。
彼はそう思うと、勉強を始めた。
息抜きには絵を好きなように描く。
もうすぐ、女性との祭りの日だ。
彼は無意識に口元に笑みを浮かべると、絵のノートに小さな魚をたくさん描いた。
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