14
楽しい時間はあっという間に過ぎると誰かが言っていた気がする。
気づけば二人の飲み物は空っぽになっており、同時にこの時間の終わりを告げる。
「そろそろ行こうか」
タイミングを見計らったように女性が時計を確認してそう言った。
ちらりとカフェの入り口を見れば、空席待ちの列が出来ている。
彼は頷くと、伝票を手に取りレジへと向かった。
うかうかしていると女性が支払いかねない。
さっさとレジへと向かう彼を見送りながら、女性はふふっと小さく笑った。
その手には取りだした財布が握られている。
「忘れてなかったか」
残念と呟き、女性は財布をリュックにしまい立ち上がった。
支払い中の彼の隣を通り過ぎ、外へ出ると日はすっかりオレンジ色に染まっていた。
―あぁ、あの日みたいだ―
女性はすっと目を細める。
遠い昔、女性がまだ高校生だった頃の・・・。
「お待たせしました」
彼の声で女性は意識を現在へと戻した。
「いやいや、こちらこそありがとうね」
にっこりと笑えば、彼は照れ隠しなのか顔を逸らしてどういたしましてと呟いた。
「さぁ、帰ろうか」
名残惜しいがここでわがままを言える程、彼は素直ではなく、又、女性とはそこまで親しいとは思っていなかった。
「そうですね」
非現実から現実へと帰る道。
オレンジ色の空がゆっくりとピンクと紫色のグラデーションに塗り替えられ始めている。
「さて、次はどこに行こうか」
当たり前のように次の約束をする女性の存在が嬉しくて、彼はそうですねと空を見上げた。
特に意味はない。
なんとなく、今日の空の色を覚えていたくなっただけだ。
彼の心境を知ってか知らずか、女性はそうだとスマートフォンを取り出した。
「確か、再来週、隣町との合同大イベント祭りがあったよね」
そこに一緒に行こう。
川を挟んだ隣町との合同祭り。
いつから開催しているか分からない歴史あるその祭りは少し独特だった。
彼と女性がいる町では白い狐の面、隣町では黒い狐の面が配られそれを持って祭りに参加する。
決して行き来することのない不思議な祭りだが、川の向こうで見える祭りの明りが幻想的で地元の人間からは人気がある。
「いいですけど」
彼は少し言葉を濁した。
同級生に見られることを懸念しているのだろう。
「見られたら、親戚のおばさんに連れ回されたとでも言っておけば良いさ。それくらい年は離れているんだから」
「そうは見えませんけどね」
「その歳でお世辞が言えるとは!将来が恐ろしい!」
「・・・あっもういいです」
彼の対応が不満だったのか、女性は少し拗ねた表情でスマートフォンをしまった。
「行かないならいいけど」
「行かないとは言ってません」
可愛げないぞ
女性はそう言いながらも嬉しそうに微笑んだ。
それにつられて彼も自然と笑顔を浮かべる。
「じゃあ、またね」
川の近くまで来たとき、女性はそう言って手を振った。
彼も小さく手を上げ、応えるとそのまま女性に背を向けて歩き出した。
「またね」
女性はそう小さく呟くと、優しい笑みを浮かべて彼と反対の道を歩きだした。
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