13
「おー初めて来るカフェだ!」
彼がスマートフォンで検索して案内してくれたカフェの入り口で女性は目を輝かせた。
以前、ボウリングに行った際にコーヒーに目がないと女性が話していたのを彼はなんとなく覚えていた。
今回のカフェラテご所望も本当に好きなのだろうと、文句を言いながらも真剣に検索したのだ。
既に行ったことのある場所だったらと半ば心配していたが、女性の反応を見れば本当に初めてなのだろう。
彼は内心、ほっと息をつきながらもいつも通りの表情を保つように努力した。
「素直に喜んでいただけるとは・・・」
「それはどういう意味だ!」
「いえ、なんでもありません」
むうっとむくれるふりをする女性に入りますよと彼は入り口の扉を開けた。
店内は白を基調としたシンプルな空間だった。
派手すぎない装飾にコーヒーの香りが漂い落ち着く空間な反面、女性客が多く、彼は少し入りづらさを覚えた。
「どうかした?」
女性が立ち止まった彼の後ろで店内を覗き込んだ。
すぐに察したのか、女性はふむっと頷くとそのまま彼の背中を斜め前に少し押し、自分が前に出れるように隙間を作った。
「いらっしゃいませ」
優しい笑みを浮かべて店員が静かにしかし通る声で挨拶をした。
「二名様でしょうか?」
女性が頷くと、店員はこちらへどうぞと店の奥、窓際の席を案内した。
丁度、席がタイミングよく空いていたらしい。
「こっちだって」
隣に立っている彼に声をかけると、女性は優しく笑った。
思春期の彼には女性客が多い店は入りづらいものであることは容易に想像できた。
入ってしまえばなんてことはないのだが、入るまでは恥ずかしさや謎のプライドが顔を出してくる。
年齢を重ねればそれはとても些細なことなのだが、今の彼には高すぎるハードルだろう。
「君がぼんやりしていると私のカフェラテが永遠に飲めないからね」
席に着き、そう女性が言えば彼は少し拗ねた表情ですみませんでしたねと呟いた。
「あまりこういう店にこないんで、戸惑っただけです」
少し格好つけて彼が弁明をするので、女性はそっかと笑った。
「では、次は格好つけずに好きなものを飲もうね」
女性がメニューを差し出した。
「一応、言っておくとブラックコーヒーが飲めるから格好良いとかは一切ないからね」
彼の心を読んだかのように、女性がそう言えば彼はうっと小さく呻いた。
「好きな物を好きに飲んで良いんだよ。無理に周りに合わせたり見栄を張ったところですぐにボロが出て、悲惨な結果が待っているんだから」
その言葉は飲み物の話なのだろうか。
女性の目は少し真剣で、彼は思わず目をそらした。
「別に挑戦しようか悩んでただけで、格好つけようとした訳じゃないですから」
でも、そう言うならと彼はアイスミルクティーを指さした。
「挑戦も大事だけどね、今日は楽しむためだから好きな物にしておくのがいいよ」
女性は宣言通りカフェラテを選び、二人は他愛ない会話を続けながら運ばれてきたカフェラテとアイスミルクティーをゆっくりと飲んでいった。
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