12
水の中を行ったり来たり・・・。
気になる魚がいれば戻り、少し進み、また戻りを二人は繰り返していた。
自然と彼の笑顔が増えていくなか、女性はそれを嬉しそうに目を細めて見つめている。
その視線に彼が気づくことはなかったが、女性は本当に嬉しそうに微笑んでいた。
彼はきっとまた自然と絵を描けるようになるだろう。
若い彼の未来が明るいことを信じて疑わず、女性は次はあそこに行こうと水槽を指さした。
立ち止まってもいい。
悩んでも良い。
けれど、絶望しないで欲しい。
これは女性の願いで希望でわがままであることを自覚している。
それでも願わずにはいられない。
「あの魚の顔、君に似ているねー!」
「・・・かなり失礼なこと言ってません?」
心を開いてきているのか少し拗ねた様な表情の彼は年相応の幼さが混じっている。
「いやいや、あのスタイリッシュな感じ!似ているでしょ!?」
「スタイリッシュというよりとぼけた顔してません?」
見る人が変われば見方も感想も変わる。
それに彼が気づくことができるだろうか。
彼が呆れ女性につっこみをいれる。
そのテンポが心地よくて彼は自然と笑顔を浮かべた。
そのとき、久しぶりに彼は息がしやすいことに気がついた。
視界が明るい。
(そうだった。世界はこんなにも明るかった)
水の中のきらきらが彼の視界に心に世界に広がって輝いていく。
彼の瞳に光が宿った、気がした。
女性は小さく彼に聞こえないようにおかえりと呟いた。
「さて、そろそろ出口だし約束通り、コーヒーでもおごって貰おうかね!」
ふふふっとわざとらしく笑う女性に彼は、はいはいと適当に返事をした。
「何をご所望ですか?」
「では、ラテアートが見たいのでカフェラテで!!」
「男子高生がラテアートしてくれるカフェ知ってるとでも?」
「おやおや、それは偏見ではないかな?君が調べればいいだけの話だよ!」
女性は楽しげにスマートフォンを取り出した。
出口が見える。
長いようで短い水の中の冒険はもうすぐ終わりを告げる。
その先のお土産屋で女性はうつぼのぬいぐるみを買っていた。
「この歳になってもぬいぐるみには目がなくてねー」
そう笑いながら大事そうに袋を持つと、女性はきらりと瞳を光らせた。
「で、カフェは見つかったかい?」
女性がぬいぐるみを選んでいる間、彼が文句を言いながら調べていたのを知っている。
「調べましたよ」
行きましょう。
わざとらしくため息を吐きながら彼はこっちですと指さした。
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